キャリア支援者のための「知ったつもりならないヤングケアラー」

最近、メディアに取り上げられるように「ヤングケアラー」。
「聞いたことがあるし、メディアで読んだり、見たりしたから、わかっている」と思っているかもしれません。
しかし、キャリア支援をしているあなたの前にヤングを過ぎて20代~30代になった若者ケアラーが来た時、”つもり”だけではサポートが難しくなります。
今回は、キャリア支援の方々に向けて「知ったつもりならないヤングケアラー」をお届けします。
ヤングケアラーとは
漠然としたイメージではなく、まずは、ヤングケアラーについて改めて振り返ってみましょう。
家族の中の祖父母・親・きょうだいの誰かの介護・ケアを担う18歳未満の子どもを指しています。
日本ヤングケアラー連盟は10種類に分類しています。
・障がいや病気のある家族の代わりに買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族の代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
・目が離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳をしている。
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患などの慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
数字で見るヤングケアラーの実情
厚生省の全国調査から 2021年4月
中学2年で5.7%(約17人に1人)、高校生2年生(全日制)で4.1%(24人に1人)の割合です
世話に費やす時間
中学2年で1日平均4時間、高校生2年生(全日制)で平均3.8時間
通信制の生徒…平日1日あたり7時間以上
メディアに取り上げられているのは、家族の介護が多いのですが、分類からみると介護だけではないという認識も大切です。
また、きょうだいが複数いても一人だけが背負い込んだり、一人ひとり頻度や割合も違い、定義が難しいのです。
家族でケアをする・面倒をみるべき」という考え方がケアラーを追い詰める
支援者の中には、昔から大人の介護をしていた子どもは身近にいたのだから、わざわざ「ヤングケアラー」と大げさに取り上げているだけと思われるかもしれません。
また、親の責任なのではないかと思うかもしれませんが、誰が悪いわけも決してありません。
ヤングケアラーが発生せざるを得ない環境(社会)の状況下があるということです。
そのため、まだ世間にある「親の面倒は子どもがみるべき」という価値観が、ケアラー自身にさらに「家族だからみなければいけない」という自己責任を押し付けることになります。
その結果、ケアラー自身に家族に対して介護がツライという気持ちを持つなんてと自分を責めたり、生きづらさを抱えて、誰かに気持ちを吐き出したくても吐き出せなくなってしまいます。
家族は多様化している
現在は、核家族化、家族の複雑化、(シングル)例えば、親が精神疾患、子ども一人など、一人ひとり家族の形が違い多様化しています。
家族を支える手が少なく止むなく子どもへと負担がかかるのです。
そのため、学業と家庭生活の両立が難しく、例えば寝不足や家族のケアのために遅刻や欠席が増え、その結果不登校に繋がる可能性もあります。
「家族で在宅介護する」、はすでに家族そのものに負担がかかり、重くなり過ぎています。
子どもらしい時間が過ごせない
家族のケアが中心に行うと、宿題やクラブ活動、塾や習い事、友人と遊ぶなどは、後回し。
ヤングケアラーの自由になる時間は少なくなり、子どもらしい時間が過ごせなくなります。
日々、自分より家族を優先していると、だんだん自分の自由にすることに対して罪悪感を抱く結果にもなります。
現在、子どもらしい時間が過ごせるように、各自治体でケアラー支援が整い、ケアラーに対する風向きが変わりつつありますが、スタート地点でまだまだ十分ではありません。
だからこそ、ヤングケアラーが家族の代わりに何かをするのは当たり前ではないのです。
ケアとは、どんな意味があるの?
ヤングケアラーは、ヤング(年齢が若い人)+ケアラー(ケアをする人)を組みあわせた言葉です。
ここで出てくる
世話をする、配慮する、気にかけることです。
ケアは労働の側面である世話をすることと感情の側面にあたる気遣いがあります。
感情の側面でいうと
家族からの希死念慮の言葉や感情の起伏のある障害者、精神疾患の家族の気持ちを受け止めざるを得ないという場合もあります。
また、寝不足や学校や仕事の遅刻の原因が、不安定な気持ちでいる家族の話を夜に聞いてなだめていたからと言った場合もあります。
私の経験から
「お手伝い」が悪いわけではない
ちょっとずつ家族から頼まれたケアや家事のお手伝いをすること自体が悪いことではありません。
片付けやお金の管理、買い物、料理、洗濯などは自立や生きる力、社会性を身に付けるための大切なスキルです。
支援者の中にはお手伝いをして、お小遣いをもらった経験や親や周りの大人からから褒められて「嬉しい、またやろう」と感じたこともあると思います。
このように、お手伝いは承認や自己肯定感を育み、人の役に立っていると実感も得られ、自分の自信にもつながります。
しかし、ヤングケアラーのケアはそうではありません。
親が親らしく機能していない状態の中、お手伝いからじょじょに負担が増えていきます。
目に見えて急激にしんどくなるよりは、家事やケアの役割がゆっくりと確実に増え、しんどい状況に追い込まれていく感じです。
しかし、ケアラー自身はお手伝いの延長と思っていたり、幼い頃から障害者がいて関わることが当たり前であって、自分がケアラーと気づいていなかったりしています。
そして、料理、洗濯、掃除などの家事全般、アルバイトなどの家計支援・管理といった責任が過度になり、ヤングケアラー本人がいなければ家のことが回らない状態になっていきます。
NGワードをケアラーにしていませんか?
あなたはこんな言葉をかけていませんか?
「見てあげて(お手伝いをして)エライね」
目の前に家族のためにケアをしている子どもや若者がいたら、褒め言葉として発しているかもしれません。
でも、ケアラーたちの中には褒められることに違和感を感じている場合もあります。
良い子の振りをしているだけで、本当はケアを休みたいや友だちと遊びたい、こんな家族でいるのがイヤだ、などの気持ちを抑え込んでいるからです。
「今の経験をバネにして頑張れ。」や「負けずに乗り越えて」
励ましているようですが、これ以上頑張れないほど追い詰められています。
良かれと思ってかけた言葉がヤングケアラーがさらに、しっかりしよう、面倒見続けなきゃとさらに肩に力が入ります。
この言葉はプレッシャーにしかなりません。
将来へのビジョンが持ちにくい原因は?
勉強、遊び、学校の部活など子どもならではの時間が奪われ、ヤングケアラーがいなければ、家を回していくことはできない日常ができあがると、
次のように思うようになります。
・就職先や進学は家から通えるところが前提になっている家から離れられない状況だと、自分自身を縛る
・家族の治療費や幼いきょうだいのための学費、自分の奨学金の返済などお金の問題といった金銭面の負担のために進学したいけど、働くしかない
進路や就職といった将来の可能性が広がっていると考えにくくなります。
ヤングから若者へと続くケア
ヤングケアラーは、ヤングとどまらず、若者から中高年になっても続き、就職、結婚などの人生のターニングポイントに家族は切り離せない状況でもあります。
介護のために家族という限られた空間では、仕事という社会の接点が希薄になります。
そして、家族の介護を終えた後は燃え尽きてしまうこともあります。
そうなると、どんな仕事があって、どんな仕事に向いているのか、具体的に思い浮かべるのが難しくなったり、何から始めればいいのかわからない
状態になります。
仕事と家庭の両立を目指しているケアラーもいる
親や祖父母、きょうだいなどの介護や心のケアを辞めたいというケアラーさんばかりではありません。
今の生活を基盤としながら「どうやって仕事をしながら生きていけるのか」を知りたいと思っています。
まずは、今の現状をしっかりと聞き受け止めていきます。
ケアラー自身に未来を自分で選び取っていく力はあるのですが、今は弱まっている状態です。
答えを指し示すのではなく、選択肢がどれくらいあって、どんな風に選んでいくのかのサポートを目指していきましょう。
自由になることへの罪悪感
進学や就職で一人暮らしをすること、障害者本人に関わらないこと、家族のケアの負担を減らしたい、しないなどヤングケアラーが家から自由になることへの罪悪感があります。
そうなると未来が選べないや見えない状況に変えることのできない現実に無力感やしんどい思いも増え、働き方のビジョンをもちにくくなります。
いつケアラーになるかわからない
ヤングケアラーはもともといるのではなくて、ある日突然「なっていく」という状況です。
それはいつなるとはいえません。
障害者のきょうだいがいれば生まれた時から、弟や妹なら幼い時から、親や祖父母、きょうだいの病気はいつ発生するかわからないからです。
就活中、受験中、結婚を考えている時などライフイベントに直撃することもあり得えます。
就活中であれば、介護と仕事の両立が出来るのか、家族の介護に専念して、仕事を探すのをあきらめた方がよいのではという考えになることもあります。
困難な状況にある大変な人たちに目を向けすぎない
「ヤングケアラー」という枠組みに当てはめ過ぎない
面談の場面でクライエントさんの過去の経験を聞いた際に「ヤングケアラーさんだったんですね」と声をかけたとします。
「ヤングケアラー」という言葉はここ2~3年に急激に広まりましたが、まだまだ浸透しているとはいえません。
例えば、40代以降の方ならば、
「それは何ですか?」
「そうなんです。」
「そんなメディアに取り上げれらているような大変ことしてないので違います」
「そんな風にみられたくない」など
返事が分かれると思います。
支援者としては、1つの枠組みで見るのではなく目の前の相談者をありのままに受け入れることが大切です。
カテゴライズされるのがイヤという感情がある
ヤングケアラーをはじめとして、ケアラーは現在、メディアに登場したり、取り上げられているヤングケアラーの介護の様子をみて、
例えば、
・ヤングケアラーは家族のために頑張っている人と感動的な対象にみられる
・家族の犠牲になっている「かわいそうな人」
・支援を受ける側の人
などとカテゴライズされることに抵抗があります。
そのようなイメージを押し付けたり、さらに当事者というレッテルを貼られることで、彼らはますます生きづらさを抱えています。
支援者がカテゴライズした目で見てしまうとせっかく来た面談の前に心を閉ざしてしまう一端にもなります。
目の前の人をありのままに接することが大切です。
一言でまとめない姿勢を持つ
ケアラーに「大変だね」という一言でひとまとめにしないようにしましょう。
「大変」にはその人、その人によって感じ方が違います。
現在、どんなケアや家事負担をしていて、それにどれぐらい時間を費やしているのか
きょうだいがいれば分担しているのか、一人で一手に引き受けているのか
などを聞いてみてください。
そこから、ケアラーの中には、ケアが辛いだけではありません。
自分の時間は取れないけれど大切に想っていることもあります。
また、家族にのためにケアを行ってきた体験をなにかしら役立てたり、還元できたらいいなと思う気持ちもあります。
困難な状況にある大変な人たちに目を向けるのではなく、どうしたらその想いをサポートできるのかも考えてみましょう。
なぜ相談に来ないのか?
ヤングケアラーを経験した彼らにとって「相談」に行くのは、相当ハードルが高い行動です。
ワラにもすがるといったそうとう困り切った状態で来ている可能性もあります。
就職に際しては、どうしても介護をベースにせざるを得ない事情が発生することもふまえておきましょう。
人に甘えるのが苦手
本当は親に甘えたり、助けて欲しい時があっても、それができるような状況でなかった場合、子どもは子どもなりにまわりの大人に遠慮していきます。
日々の生活において「誰かの負担にならないように、迷惑をかけないようにしよう」と我慢します。
一人で抱え込んで身動きが取れない状況になっていても、SOSが出すのが苦手な場合もあります。
相談はハードルが高い理由
・出会う大人が先生と親と限られている中で、先生に話しても障害や病気の理解が低いや学校は助けてくれない
・スクールカウンセラーは別室対応で友だちから特別扱いされているなど周りの目が気になる
・「両親はなにしてるの!?」と言われる。
・親に筒抜けになるのは嫌だったり、話すことで親に肩身の狭い思いをさせていることや悪者になってしまうことに繋がるため。
そのため、家族を大切に思っているのに、今の形を壊してしまう大人がいると認識してしまうことにもなる。
・家族から「家のことを話さないで」と言われていってはいけないことだと思い込んでいる
・話すことで、何とか保っている家族が壊されてしまうのではと思っている
・家族から「必要だ」やヘルパーさんなど知らない人が家に来ることに抵抗がある家族から「あなたではなくてはダメなんだ」と言われると期待に応えたいと思うため。
親自身も動いてみたものの、福祉の手続きは基本申請方式で、そういう支援があると知らないと手に届かない。
知って相談しても手続きが複雑だったり、証明が必要 体力と時間を奪うのであきらめてしまうこともある。
・友だちには、家族にケアが必要な祖父母、両親、障害を持っているきょうだいがいるとは話しづらいし、話すことで今の関係が壊れてしまうのも怖いと感じている
・友だちに話すとかわいそうと思われたくないと一人で抱え込んでしまう
・友だちと話がケアや福祉のことなど話が合わないからしんどくても話さない
ケアや障害について理解してくれる人がいないから説明しづらく、小さい頃から自分の持っている言葉なりに友だちや大人に説明しても、ケアがある家族状況でなけければ分かってもらえないことの方が多くあります。
時々、家族で面倒見るべきという世間の考え方がヘルパーさんや医療機関の人から家族で面倒見た方がいいという考えたが透けて見える。
・「家族のために頑張っている若者」など感動の対象になってしまうのがイヤ。
・特別な人、支援を受ける人とみられること
・ありのままの自分を受け止めてくれない
面談中に就職について「親に相談しましたか?」は、できないから相談きているのに、やっぱり親が出てくるのかというがっかりとした気持ちになる
これらのような理由から、家族のことや自分の置かれている状況を打ち明けることは、とてもハードルが高く、勇気が必要なのです
終わり
ヤングケアラーの置かれている現状についてお伝えしました。
しかし、最初にも書きましたがヤングケアラーは一人ひとり実情が違いますので、これが全てではなく、こういう問題があると気がつくことが
支援者として大切で、最初の一歩になります。
キャリア支援は生き方支援でもあります。
ケアラーが介護やケアをしながら仕事もできる環境をどう整えつつも、自分を大切にして、自分らしい人生を歩めるのか考えることができるようになる支援を目指していきましょう。
★八木尚美のHPはこちら