障害者家族として知っておきたい会社での合理的配慮

障害者に関わりのある方であれば「合理的配慮」という言葉は知っておられる方も多いかもしれません。
しかし、説明となるとなかなか難しく、」なんとなくわかっているけど、詳しくは知らないという障害者家族や会社もあるのでは?
今回は
- 障害があることがわかりこれから障害者としての就労を考えている
- これから障害者雇用を考えている会社の方
- すでに障害者雇用をされていてどのようなサポートが必要か考えている会社の方
- これから就職を目指している障害者家族として何を準備しておけばよいのか知りたい方
にむけて、キャリアコンサルタントであり、家族内障害者カウンセラーでもある八木尚美が、合理的配慮についてわかりやすくお伝えます。
合理的配慮を知る理由は?
平成30年から法定雇用率が2,2%に引き上げられると同時に精神障害者の雇用義務化が始まりました。
2021年には雇用率も0.1%引き上げられ、今後ますます、障害者雇用の幅も広がり、障害者雇用も追い風となってきました。
それにより、これから先、会社では障害者のある方たちにむけて環境を整えていくことがさらに求められていきます。
これは、障害者はもちろん、子育て中の特に女性の方たち、介護中、高齢者、治療と両立などさまざまな事情を抱えながら働く人たち誰もが働きやすい職場環境を整える第一歩になります。
会社にとっても多様性を目指すためのメリットにもなります、
合理的配慮ってなに?
2016年4月施行の「障害者差別解消法」により、
①「障害を理由とする不当な差別の取り扱い」と②「合理的配慮の提供義務」が行政機関、学校、会社の事業者に課せられています。
「障害を理由とする不当な差別の取り扱い」とは?
地方公共団体、会社、店の事業者などが障害のある人に対して、機能障害を理由にして区別したり、断ったり、行動を制限すること。
医療などの各種サービス機会の提供拒否、補助犬を連れているのに飲食店などの入店拒否、学校の受験入学を断るなど障害を理由におこなわれること
そもそも「合理的配慮」とは?
公的機関は義務化、民間は努力義務。
配慮ができるのに行わないことを差別であるとしています。
障害者本人から「社会的障壁」を取り除いて欲しいという要望が出れば、無理なことではない限り、サービス、個別の支援、配慮、工夫、ルールの修正などをして利用できるようにすること。
社会的障壁とは?
障害を理由に結果的に社会のシステムやサービスなど利用できない状態になっていること。
また、毎日の生活や社会で生活をする時、妨げとなる社会の制度や考え方などすべて。
対象となる障害者の範囲
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の脳や体の機能に障害があり、長期にわたり、日々の生活や社会生活、職業生活を送る時に相当な制限を受けてしまう方たち。
障害がある全ての人が対象。
つまり、障害者手帳を所持していない方も対象になります。
現在雇用されている中で、病気や事故で障害者になった場合、障害者手帳を取得しなくても職場復帰した際には、配慮を求めることができるということです。。
会社で行う合理的配慮にはなにがあるの?
障害者雇用の経験が少なかったり、これまでなければ、障害者の「働く」ための能力やスキルが具体的にイメージしずらく、現実よりもはるかに簡単な仕事を提供してしまう可能性が出てきます。
しかし、それは合理的配慮ではありません。
そのため、障害者本人、それからご家族、就労移行支援事業所の支援者と相談して配慮を決めていきます。
障害者本人の第1印象や支援者や家族の意見だけで判断せず、事実を見極めて受け止めていく
どんな時にどんな配慮がいるのかは、障害者ひとり一人違います。
一人として同じ配慮はありません。
会社としては、障害者本人と定期的に話し合って、その都度配慮事項を決めていくことが大切です。
話す内容は、障害者本人が働く上で
・どんなことに困っているのか
・仕事のどこでつまずいているのか
・コミュニケーションの在り方
・通院や勤務時間と日数などの働き方
となり、現状とすりあわせながら、アレンジして応用して仕事の形を作り上げます。
定期的に振り返り働く環境を整える
仕事の形を作り上げた後は定期的に振り返りを行います。
その時は良くても後々改善点も出てくるからです。
また、難題に直面した時、粘り強く試行錯誤を重ねて、何に気を付ければいいのかポイントを探りながら再度、妥協点を見つけていきます。
話し合ってマニュアル作成⇒トライ(実行)⇒チェック(振り返り)の繰り返しで事故やトラブルに備えた働き方の環境とベースを一緒に考えていきます
合理的配慮の注意点
今回の事例はほんの一部です。
合理的配慮の中には【事業主に対して過重な負担を及ぼすときは提供義務を負わない】と記述があります。
そのため、一番大切なのは、本人と話し合いながら環境整備や方法を検討し、会社の中で無理のない範囲で、合意のもと実施をすることです。
加えて、家族や支援者から話を聞くことで、例えばパニック時や体調不良時の効果的な関わり方など工夫する点もわかります。
とにかく「話し合う」を大切にします。
採用時の合理的配慮について
・問題用紙の音訳・点訳、試験時間の延長、回答方法の工夫など
・面接時には必要に応じてコミュニケーションの補助者や支援機関、学校のなどの支援者の同席を認める。
雇用後の合理的配慮について
・一度行った合理的配慮も有効だったかどうか定期的に検討する。
その際は必ず本人から意見を聞くいた上で実施する。
・会社としてどこまで障害者であることを知らせるか?
・体力や日々、季節や日々体調が変わる場合もあることを考慮して仕事内容を決める。
・相談窓口や担当者を決める
例えばこんなことが合理的配慮になります。
◇精神障害者の方◇
短時間勤務や出勤時間の調整、服薬後の休息場所など、久し振りに仕事復帰する場合もある事を考慮するなど。
◇知的障害者の方◇
口頭での指示では伝わりにくい場合は、写真や絵の入ったマニュアル作成、書類にルビを振るなど。
◇視覚障害者の◇
音声読み上げソフトの導入、担当者が書類等の読み上げ。
書類や手、マスクなどで口元を覆って話しかけないなど。
◇身体障害者の方◇
車椅子を使用する方に合わせて机、作業台の高さを調整する。
エレベーターや通路スペースといったバリヤフリーの視点で会社内の移動の負担を軽減する。
多目的トイレの設置など
◇発達障害者の方◇
イヤーマフの使用、パーテーションで区切るなど集中して仕事を行ったり、気持ちを落ち着ける場所を用意する。それぞれの感覚過敏への対応や、視覚的にわかりやすい支持を行うなど。
◇聴覚障害の方◇
音声認識ソフト導入、火災等の緊急時に対応するためのフラッシュライトなどの導入、会議などは事前に資料の共有など。
◇難病の方◇
平成30年4月1日からの障害者総合支援法における対象は現在359の疾病あります。
病気の状態など見た目ではわかりにくく、治療方法も個人で異なるため通院や服薬等を視野に入れ個々に応じた仕事内容と就労時間を設ける。
また、病気によっては疲れやすいこともあり、その日の体調に合わせた調整もおこなうなど。
就職時の面接も合理的配慮になります
面接日等までに合理的配慮の提供を受けたい場合は、
面接日等までに十分な時間的余裕をもって事業主に申し出ることが求められます。
整理しておくことはいざという時慌てなくて済みます。
「ちゃんとして」の「ちゃんと」ってなに?
みなさんが思う「ちゃんと」や「ちょっと」って何でしょう?これは人それぞれ感覚が違うと思います。
私自身も気を付けてはいるのですが、失敗して、そのたびに反省の繰り返しです。
抽象的な表現は、障害を持つ人たちはとても戸惑います。
そのため、障害者に仕事の指示をする時や何かを説明する時は抽象的な指示語を出しません。
障害者によっては特性として、見えないもの、触れることができないものは想像がしにくいからです。
理解しにくい言葉って結構あるものです。
だからこそ、意識して具体的にわかりやすく伝えていくことを心がけます。
例えば、指示を出すときこんなことを言ってませんか?
書類や荷物を持ちながら
「これ、そこの机の上に置いてください。」
⇒なにをどこに置けばいいのかわからないので、「書類を〇〇さんの机の上においてください」と伝える
清掃場所など
「もっとちゃんと拭いて」「きれいにして」と指示をする。
⇒作業手順を見せる。どんな状態が終わりなのか終わりの状態を見せる。
待って欲しい時
質問があって来た際、自分が別の対応をしている時「ちょっと待って下さい」と言う。
⇒「今、話が出来ないので、5分後(もしくは〇時〇分)にもう一度来てください」
働いている人がわかりやすい支持を意識しよう
「ちゃんとして」、「これ、それ、あれ、どれ、ちょっと等」ですが、指示をする時とっさに出ることがありますよね。
「ちゃんとして」と注意しても障害者本人がピンと来てない時があるかと思います。
それは障害者本人が何に注意されているかわからないからです。
そして、それは「どうせ自分なんて」というマイナスな気持ちを抱いてしまい、やる気を失っていく原因にもなります。
目に見えず想像が難しいものは伝わりにくいのです。
指示をする時、気を付けて欲しいことを落ち着いて具体的に説明できるように心掛けましょう。
目指すははっきり、ゆっくり、丁寧に話す
長い文節でダラダラと説明すると伝わりにくいこともあります。
専門用語を交えているのも指示が伝わらない原因の一つになります。
どこを伝えたいのかポイントを明確に、文章は短く、わかりやすい言葉で、時系列もわかりづらい特性の方もいるので現在形で時間も示しながら説明しましょう。
例えば、次のように説明をしたとします。
今日の予定はいつもどおり郵便物の整理して、社内に届けて、そのあと会議があるからコピーをしてもらって、会議室の掃除もちゃんとしてください。そのあと月一回の面談日なので面談をします。
これではわかりづらいので、紙やホワイトボードに書き出して時系列に並べてみましょう。
その際は、振り仮名をつけたり、平仮名で書いたりその人に合わせて下さい。
また、印刷した文字で表示する時は、障害特性によっては、明朝体の細い横線、教科書体の文字の先が細いことによって“はね”や“はらい”など一部が欠けて見えたりするので、丸ゴシック、UD体、メイリオで書いてみましょう。
10:00 郵便物(ゆうびんぶつ)の整理(せいり)
10:30 ゆうびんぶつのはいたつ
12:00 昼(ひる)休憩(きゅうけい)
13:00 会議(かいぎ)資料(しりょう)のコピー。10名分(めいぶん)。場所(ばしょ):コピー室(しつ)。ホッチキスで左肩(ひだりかた)留(ど)めする
14:30 2階(かい)の会議室(かいぎしつ)の掃除(そうじ)
15:30 面談(めんだん) 場所(ばしょ):3階(かい)の会議室(かいぎしつ)
16:00 終了(しゅうりょう)
1回ではなく、じっくり何度も伝えていく
1度説明したら覚えるというのは、難しいもの。
何度も繰り返して定着していくよう焦らずじっくりと対応します。
障害者本人が十分理解して、仕事がスムーズに行えて任せる部分を増やしていきます。
そして、出来たこと、いいところは褒めて評価して伝えてくださいね。
障害者本人にとっても自身の持ち方が変わってきます。
チェックポイント
就職時に支援者がいない、採用後に障害がある事がわかりどのような合理的配慮を行えばよいのか困った場合、
を活用してみましょう。
障害者の職場適用できるように専門家として事業主や職場の従業員に助言、必要に応じて職務の再設計や環境改善を提案するなどを行っています。
家族として準備
良く言われる事ですが、就職はゴールではなく、定着して働けるかが大切です。
では、家族としては、どんなことを会社や支援者に伝えればよいのでしょう。
どうしても家族としては心配のあまり、あれこれと伝えたくなるものですが、会社側からすれば家族のわがままととられかねないので、
次の項目を参考にしてみてください。
☑いつも服薬している薬とその注意点
☑気持ちが落ち着かない状態はどんな様子か。その時の気持ちの切り替えの方法。
☑どのようなコミュニケーションを行っているのか?
☑着替えや身だしなみなど自分できること、配慮があればできること。
☑徒歩、公共交通機関、自転車の通勤方法はどれが良いのか、外出時の注意点。
☑週や月どれくらいの頻度で通院しているのか。通院時は1日休むのか午前or午後休むのか?
☑睡眠に関して
☑携帯電話や固定電話はどこまで使えますか?
☑どうしても伝えたいこと
無理なく書き溜めていきましょう。
日々の生活の中で、できること、出来ないことの変化はあります。
そのため、普段の様子を書き溜めておくと、会社から連絡があった時に伝えやすくなります。
この時、親ときょうだいでは感じる点も見るところも違ったりするので、家族で話し合えるとよいですね。
気が付いた時に障害者本人の得意、苦手、体調を把握して整理していきましょう。
お願いするばかりではなく、社会人として求められている姿も認識しつつ、歩み寄る気持ちも大事にしていきましょう。
障害者本人が困りごとを自分で伝えることも大切です
何か疑問に思った事、困った時に本人から担当者へ言えることも大切です。
会社に勤めている場合、定期的に振り返りは自分自身の「働く」を確かめる大事な機会です。
体調を崩さないような自分の働くことができる時間や日数を調整していきます。
その上で、困りごと、不安、悩みを自分の言葉で
自分から伝えられるように練習していくのも良いですね。
チェックポイント
配慮は「特別扱い」ではありません。
障害者本人の仕事の向き合い方、取り組み方、姿勢が大切です。
家族と障害者本人で無理しない等身大の姿を知って、配慮を求めていきます。
そうすることが、障害を負い目ではなく、強みとして自分らしく働くを発揮できるようになります。
終わり
障害がある無しに関わらずこれは得意だけど、ここは苦手があります。
障害者自身も苦手や時間がかかる事も自分なりに工夫して行いますが、障害者特性は本人の努力では変えることは難しいもの。
その時、家族や会社からのサポートがあれば働き続けれます。
その際の会社側の障害や難病についての理解は欠かせません。
今は多様性の時代です。合理的配慮を行う事は、お互いの違いを尊重すること。
企業の大切な労働力として会社の成長へ繋げていきしょう。