文化の異なる人と働くうえで知っておきたい「根回し」について
社内で稟議を通すとき、顧客との交渉のとき、プロジェクトの意思決定のときなどによく聞く「根回し」という言葉、イメージとしては、政治活動に使われるロビー活動に近いのかなと思うけれど、実際にはどうなの?
- 仕事の根回しってどういうこと?
- 根回しするのは日本独特だと思っていいの?
- 根回しって良いことなの?悪いことなの?
- 本当に必要なの?役に立つの?
そんな疑問を持って文化の異なる人たちと一緒に働いている皆さんに、異文化翻訳が得意なキャリアコンサルタントのMIYUKIがヒントを提供します。
根回しとは何か
根回しという言葉を聞いたとき、あなたはどんなイメージを持ちますか?
どちらかと言うとネガティブなイメージを持つ方もいるのではないかと思うのですがいかがでしょう。
私は、迷ったら辞書で言葉の定義を確認する癖があるので、話を始める前に、皆さんと一緒に意味を確認しておきたいと思います。
手元にある明鏡国語辞典(大修館書店)には、次のように書かれています。
①樹木を移植するとき、前もってその木の周囲を掘り、一部の根を切り詰めて細根を発生させておくこと。
②交渉・会議などで、事がうまく運ぶように、前もって関係者に話を付けておくこと。「企画の件を関係団体に―しておく」
もともと、木を移植するために必要な準備作業のこと(根切り)を「根回し」と呼んでいたわけです。移植後の木がすくすくと育つためには、移植予定時期から逆算して数か月前に「根回し」を行うことが大事だということから転じた表現なのですね。
ネガティブというよりも前向きに準備するという印象の言葉だと思いませんか?
一方、類義語には上記のように下準備の意味を汲み取ったものと、裏工作、水面下の交渉のように表に出ないひそかな活動を指すものがあります。後者からはネガティブな印象を持ってしまうのも仕方がないかもしれません。
根回しは善か悪か?これは後ほどお話しましょう。
ちなみに、ロビー活動も「根回し」の類義語です。明鏡国語辞典にはでてきませんが、ロビイスト(人)の定義から、‘組織や団体の利益を代表して議会、議員に対して陳情、説得工作を行うこと’と読み取れます。基本的に、政治活動について使われる言葉だと覚えておくと良いでしょう。
根回しは日本以外でも通用するのか
根回しは日本特有のビジネスアプローチでしょうか、他の国でも通用するのでしょうか?
根回しは他の国でも行われるというのが結論です。
海外でも根回しが行われる一例をご紹介します。
根回しは、海外でも行われるのですね。でも、根回しの捉え方は同じなのでしょうか?
そもそも意思決定の仕方も違いますよね。根回しにはどんなことが影響しているのか、根回しの必要性を考える前に確認しておきましょう。
根回しに影響すること
根回しは海外でも行われることは分かりましたが、国や組織によって意思決定のスピードやプロセスはまちまちです。スピーディに決断する場合には、根回しの必要性や程度が違うのではないでしょうか?また、根回しには多数の人が関係するので、ビジネスにおける人間関係も影響しそうです。この辺りについてもお話しておきましょう。
根回しは意思決定のスピードに関係する
日本は意思決定に時間がかかると言われます。実際に、個人に意思決定権があるというよりも執行委員会、役員会などグループの合意に基づいて物事を進めることが多いので、それなりに時間がかかってしまいます。また、一度決断すると修正や変更するにも同様に時間がかかるので、慎重に検討します。こういうビジネススタイルでは、根回しが大事になることが多いと言えます。
一方で、個人に裁量権が与えられる場合には、決断も方針変更も早いので、根回しの必要性も程度もそれほどではないのではないでしょうか。
根回しには人間関係が影響する
日本のビジネスでは、人間関係を重視することが多いと言えます。根回しの成否には誰を巻き込んでいくかが大いに関係しますので、日ごろ築いてきた人脈が有効に活用できる機会です。ここでの人脈は、数でなく質が重要です。
相手に興味を持って接しながら、互いの考え方や得意なこと、人脈について情報共有できるような関係が築けているのが望ましいのです。巻き込むべき相手を直接知らなくても、間接的に情報が得られれば戦略的な根回しが可能です。有益な人脈形成には時間がかかるものですから、‘その時’のために互恵的人間関係を築くことこそ究極の根回しではないでしょうか。
一方で、スピードが優先されるビジネススタイルでは、意思決定は意思決定の場で裁量権を持つ人がするものだと思っているわけですから、人を巻き込み時間をかけて合意形成するというような発想がなくても不思議はありません。
根回しは日本だけで行われているわけではありませんが、ビジネス文化が違えば根回しについての考え方も違ってきます。国の違いだけでなく、組織の規模によってもビジネス文化は異なります。ビジネス文化の異なる人と仕事して成果を上げるには、相手のスタイルを理解し、相手に合わせて根回しをすることが秘訣です。
根回しの必要性とメリット
根回しは日本以外でも行われることはお分かりいただけたと思いますので、後回しにしておいた、根回しは善か悪か? 必要か? について考えてみましょう。
根回しは必要
根回しは公式の決定の場以外で事前に行われる非公式な準備であることは否めません。英語でも、consensus buildingやprior consultationに加えてbackroom deal、behind-the scene workのように表現されることもあり、悪いことのようにとられてしまいがちですが、根回しは悪ではありません。むしろ上手にできることがビジネスでは必要です。次のように自問自答してみると良いと思います。
意思決定の場で自分の提案を通したい場合、何が必要ですか?
確実に賛成してくれる人を確保すること、ですよね。
そのためにはどうしたらよいでしょう?
意思決定の場で反対意見が出た時、限られた時間で説得する自信はありますか?
根回しのメリット
根回しはビジネスで必要なだけでなく、主に3つのメリットがありますのでお伝えします。実際に根回しをするとなると躊躇してしまう方には、考え方の整理に役立てていただければと思います。
1 時間の有効利用
意思決定の場で却下されたり紛糾したら、次の意思決定の場まで持ち越すことになります。
それならば、意思決定の場に向かって、支援者を増やす努力をした方が効率が良いと思いませんか?
2 支援者を増やし、反対者を中立に
そもそも、根回ししたからといって相手の意見を変えることは容易ではありません。それでも反対しそうな人には中立な考え方を持ってもらえるように説明努力をするほうが賢明だと思いませんか?
3 次回以降の案件にも役立つ
根回しのプロセスで得たフィードバックからは自分にない視点を得られるので、資料の改善や次の案件に役立てることができますよね。また、接触した関係者とのつながりも、各所に活かすことができるようになります。
根回しにおける注意点
最後に、具体的に何が根回しになるのかについての考え方は人によって違うかもしれませんが、私の経験から根回しをする時に特に大事だと思うことを5つお伝えしておきたいと思います。
1 提案の中に不利益な人をつくらない
これは基本的なことなのですが、提案を実施したときに不利益になる人が出ないように、関係者それぞれの視点でチェックすることです。話にならないような提案の場合には、根回しするまでもありません。
2 出来るだけ早く根回しを始める
根回しをするなら、できるだけ早く始めましょう。根回しのプロセスで得たフィードバックを提案書に反映するためにはそれなりの時間が必要です。
3 根回しをする人物と順番
案件により、意思決定のカギを握る人物を特定し、どういう順番で接触すべきかを見極めましょう。
4 勤務時間外の行事にも参加する
人の本音は、職場外、勤務時間外で吐露されることが多いのが事実です。また、職場で見られない側面が見られることも多いものです。機会があって都合がつくならば参加してみるとよいでしょう。
5 フォローアップ
根回しで接触した人物へのフォローアップを忘れずに。その人の貴重な時間を割いてもらったこと、その人の考えを教えてもらったことへの感謝を伝えましょう。
まとめ
根回しは、時間と手間をかけて準備することで事をうまく運ぶ交渉術で、悪いことではありません。むしろビジネスでは必要になることが多いことを、得られるメリットも併せてお伝えしました。さらに、根回しが日本だけでなく海外でも行われていることをエピソードを交えてお話しました。
国や組織のビジネス文化によりその捉え方はまちまちです。交渉の早い段階から、相手に合わせて根回しをすることが大事です。
5つの注意点も参考にして、根回し術を味方に付けることをお勧めします。