日本人の時間感覚は?仕事依頼、メール、期限など外国人が気をつけること

日本人は世界で一番時間に正確な国民と聞くけれど、いったいどれくらい厳格なのだろう?
時間厳守って、時間ぴったりっていう意味? どれくらいの遅れなら許される?
相手先を訪問する場合、早めに着くように出て行くのはわかるけれど、早く着いても約束の時刻まで待つことが多い。「早く着いたのですが」と電話でもして、早く用件を済ませた方が時間の無駄がなくてすむのにとに思う。
始業・集合時刻については時間厳守だけれど、終業・解散時刻についてはルーズな感じがする。
日本人の時間感覚にモヤモヤ感を持って日本で働いている外国人の皆さんの疑問に、キャリアコンサルタントのMIYUKIが約30年にわたり多国籍のビジネスパーソンと接してきた経験をもとに、得意な異文化通訳の力を発揮してヒントを提供したいと思います。
日本人は時間に厳しい?
日本では6月10日は「時の記念日」です。そして、2020年は時の記念日100周年にあたります。
「時の記念日」って? なぜ6月10日? そう疑問を持つ人も多いでしょうから簡単にその由来に触れておきますね。
今から1350年ほど前の奈良時代に、当時の天皇が日本で初めて水時計を使って時を知らせた日と言われています。そして100年前、時間をあまり気にしていなかった庶民に時間の大切さを理解してもらうために、「時」展覧会が開催されました。欧米並みの生活改善と効率化を目指したと言われています。そしてこの展覧会が大好評だったことから「時の記念日」が生まれたというわけでです。
つまり、当時の日本人は時間にルーズだったんです!
日本人は勤勉実直、日本の交通機関はダイヤ通り、日本の時計は正確。そんなイメージの強い今の日本からはちょっと想像できませんよね。
第1回「時の記念日」には、ビラが配られ、勤務、会議、訪問にあたっての時間厳守と時間の有意義な使い方、時計を正しく合わせる方法などが周知されました。街中では、通行人の時計と標準時計との時刻合わせも行われました。「金より尊い宝は時間~」という記念日の歌も作られました。
時の記念日に配布されたビラ
そんな啓発活動の影響を最初に受けたのはサラリーマンでした。就業時刻を守るために電車やバスのダイヤを気にして通勤する生活を繰り返すうちに、遅刻を嫌う意識が叩き込まれていったのです。
ビジネスで養うべき時間感覚
ビジネスにおいて時間を考えるとき、大事にして欲しい視点が2つあります。一つは「共有」、もう一つは「機会損失」です。
時間の共有という視点
ビジネスにおいての時間は、プライベートな時間と大きく違う点があります。それは、自分で自由にコントロールできるかどうかです。
時間は皆に共通に、公平に存在しています。プライベートな時間なら、仮にだらだら過ごしても良心の呵責を感じる程度で、誰に迷惑がかかるわけでもありません。けれど、ビジネスにおいてはそうはいきません。
なぜなら、時間を共有しているからです。
他人にものを頼むということは、その人の時間を使わせてもらうということになります。
頼まれれば、その人のために自分の時間を使うということになりますね。また、会議をするということは、参加者がそれぞれ自分の時間を割くということです。
時間の共有という視点を持って限られた勤務時間を有効に使うという意識が、生産性の向上に役立ちます。
ところで、ある作業をする担当者を決める場合に給料をもとにした時間単価を基準にする考え方もあります。これはあくまで、組織全体から見た効率という軸で考える場合です。
ひと一人の持つ1時間の重さは同じ、軽重を付けることはできませんから、誤解しないようにしましょう。
機会損失という視点
「時は金なり」という言葉は皆さん良くご存知ですよね。日本では「時間は無限にあるわけではなく、お金と同じくらい大切なものだから有意義に使いましょう」という意味で使われます。
実はこの言葉、米国の建国の父と呼ばれるベンジャミン・フランクリンの著書『若き商人への手紙(Advice to a young Tradesman)』の中に出てくるTime is moneyを翻訳したものなのです。関係する部分を試訳すると、次のようになります。
Time is money には本来得られるはずだった益をもたらす機会を棒に振ってしまうという意味があったのですね。近年急速に広がったシェアリングエコノミー、たとえばウーバーなどはこの発想から生まれてきたといえます。
では、職場においてはどうでしょう?
他部署、チームメンバーなどと連携して仕事をするときに、ひとりの行動が、関係者の機会損失まで招くということがあります。
個人から関係者を含めたマクロな視点で時間を捉え、総時間を最大限に活用しようと考えれば、戦略的にスピード感を持って仕事に取り組む姿勢が大事ということになりますね。
それでも、どうしても予定通りに進まないこともあるでしょう。そういうときには、状況判断ができた時点でなるべく早く関係者に伝えて、各人が時間調整して機会損失を防げるように配慮することをおすすめします。
時間を意識した仕事の工夫
ビジネスにおいては、時間の共有、機会損失という2つの視点を持って各人が仕事に取り組むことが大事だとお伝えしました。
では具体的に、どんなふうに仕事に活かしていけるのか、私の個人的な経験をもとにお話しようと思います。
スケジューリング
プロジェクトなど複数の関係者が関与する場合には、当該期間に他の案件などの理由で対応できない日程があるかどうかを互いに共有しておきましょう。時差や他国の祝日も確認しておくと良いと思います。
先のことはわからないしなるようになる、という考え方は避けるべきです。このように、関係者に負担をかけないよう誠実に対応することがビジネスの肝である信頼関係を築くことに繋がります。
また、予め遅れを加味して余裕をもった締切りを設けるのは良いのですが、そのバッファーを必要以上に多く取るのはやめましょう。相手を信頼していないと取られるか、最初から意味のない締切りだと軽視されることになります。
相手先訪問の場合は、約束時刻丁度に訪ねるのがベストです。たとえ早く着いても、相手にはその時間に「やることがある」ということを意識すべきです。会議でも同様、次の予定・仕事を意識して予定通りに終えることが大事です。
電話や仕事の依頼
誰かに電話で問い合わせたり仕事の依頼をするとき、昼休憩や終業時刻の直前は避けましょうと日本なら新人研修などでエチケットとして教わりますが、意外と守られていないように思います。
「お昼休みにすみません」、「もう退社時刻ですよね、すみません」など一応断ってから話が始まります。
これは、自分の段取りを優先して、相手の時間を共有するということを軽視した行為です。休憩は頭と体を休めて生産性を上げるためにあるのだという認識も薄れているのかもしれません。
すぐに終わると思っていたら、次々と話が加わり、気づいたら長電話という経験はありませんか? 相手の時間を奪い、機会損失を生んでいる可能性があるという意識が足りない行為ですね。
まず、自分がコントロールできる時間とできない時間の区別、オンオフの切り替えの実践から始めましょう。
そして最初に、タイミングに問題ないかを所要時間の目安とともに相手に確認し、用件はポイントをまとめて簡潔に伝えます。もし相手がそのようなエチケットを心得ていない場合には、自分から確認します。
時間を割けない場合は、はっきりと状況を伝えて別途時間を設けましょう。
スマホの普及やテレワーク推進のお陰で、オフィスにいなくても仕事ができるようになると、このような配慮は今まで以上に大事になってくると思います。
メール
1日のスタートはメールチェックからという人、多いと思います。いかに効率よくメールチェックをするか、悩みどころですね。受け取る側として一番知りたいのは、どのメールから対応すべきかだと思います。
その心理を掴んで送る側ができることは何か?
工夫の仕方はいろいろあると思いますが、私のおすすめは件名の活用です。
件名欄に端的に用件を書き込むのです。緊急性の有無、締切り、何を相手に求めているのか、伝えたいのかを知らせることにより、相手は優先順位の判断をつけやすいというわけです。
むやみやたらに重要マークなどをつけても、それは差出人の主観でしかありません。「ご参考」とか「急ぎではありません」と書くのもありです。
特に、初めてコンタクトする相手の場合には、ジャンクメールとして扱われてしまう懸念があります。そういう場合には、「●●氏の紹介で~」とか「●●さんに▲▲のお願い」などと具体的に書くことできちんと目を通してもらえる確率がぐっと上がります。
時間の共有、機会損失という視点を活用した工夫の一例をご紹介しました。このような時間に関する配慮は、双方にとってメリットがあるもの、ビジネス上の信頼関係の土台となっていくのです。
まとめ
もともと時間にルーズだった日本人が、遅刻を嫌い時間厳守になったのは、今から100年前の「時」博覧会そして「時の記念日」が大きなきっかけとなりました。
また、Time is Money (時は金なり)には「時間を大切に使いましょう」だけでなく「機会損失」という2つの意味があるということをお伝えしました。そのうえで、日本で仕事をするときに役立つのは、「時間の共有」、「機会損失」という2つの視点です。
いずれも自分を取り巻く関係者の時間をも尊重するという考えに基づくもので、ビジネスの基本である信頼関係を築くことに通じる肝となる姿勢です。
働く時間も場所も自由になりつつある今こそ、この時間感覚を最大限に活用してみてください。