能ある鷹は爪を隠すか隠さないのか?メリット、デメリットを考察
「能ある鷹は爪を隠す」といって、本当に実力がある人は他人に誇示するようなことはしない。いざという時に役立てるものだと言われたことはありませんか?
一方で、自分にしかできないことや強みを理解して、しっかりと主張できることが大事と最近は言われるようになりましたよね。
仕事の上で、能ある鷹は爪を隠しておくほうが良いのか、隠さないほうが良いのか、どっちなの? そんな疑問を感じている皆さん、異文化翻訳が得意なMIYUKIと一緒に新たな視点で考えてみませんか?
爪は意識的に隠すもの?
人は誰でも、自分が得意なことは人に知ってもらいたい、認めてもらいたいと思う気持ちがあるものです。けれども、ことわざになっているくらいですから、才能や特技(爪)は隠しておいた方が良さそうな気がしますよね。
ここで質問です。
爪を隠すって、意識的に隠すことなのでしょうか?
「能ある鷹は爪を隠す」の由来は、「鷹は獲物を捕る時に、襲撃直前まで爪を隠しておいて相手を油断させる」とか「獲物を捕るのが得意な鷹は、武器である爪(真価)は必要な時にだけ使う」という説が一般的なようです。したがって、爪は意識的に隠す、というのが本来の意味だと理解できます。
ことわざ自体はほめ言葉として使われるのに、相手を油断させるためにわざと爪を隠すとか、自分の才能は時と場合を選んで使うなんて、違和感がありますよね。むしろ、嫌みだと感じませんか?
少なくとも謙虚な態度を好む日本で、ほめ言葉として使われる場合には、爪を隠すとき、隠さないときなど意識していない人の事を指します。
ちなみに、本物の鷹の爪は猫と違って、出し入れすることはできないそうですよ。でも、ここでは爪を隠せることを前提として話を進めましょう。
ビジネスと「能ある鷹は爪を隠す」
実際に仕事をするうえで、「能ある鷹は爪を隠す」を実践して爪を隠しておく場合と隠さない場合(‘いざという時’を待つことなく自分の特技や才能を周囲に伝える)で、‘あなたにとって’、どんなメリットとデメリットがあるのかを整理してみましょう。爪を隠しておく場合には、爪を隠している時、‘いざという時’に爪を出した後の両方について考える必要がありますね。
爪を隠しておく場合
メリット
1 悪い印象を与えずにすみます
たとえどんな才能や特技があっても、普段はそれを見せずに普通に接することで、嫌味のない人だと受け止めてもらえます。自分の才能や特技に奢ることがなく常に向上心を持っている人。また、控えめで誠実な人だという印象も与えることができる場合もあります。
2 一目置かれる存在になります
普段は特別なところはないのに、いざという時に実力を発揮できると、隠された才能や特技のある人だと一目置かれる存在になります。そしてその評価に引きずられて、他の点でも何かと信頼されて意見を求められるようになります(ハロー効果)。
3 ギャップがプラスに働きます
人は、最初の印象と比べて後から得た印象にプラスのギャップがある時、つまり良い意味で裏切られた時、そのギャップが大きければ大きいほど人物評価が良くなると言われています(ゲイン効果)。普段見せている姿といざという時に才能を発揮する姿の違いに、人は心を動かされ良い印象が強く残ります。
デメリット
1 自信がない人物だと思われます
自分の強みや才能を武器として使えないのは、自己理解不足や自信のなさを示していると受け止められかねません。特に、言葉で表現されたことだけが重要視される自己主張を基調とするビジネス文化では、高い評価が得にくいと言えます。
2 出し惜しみだと思われます
自分の才能や特技を積極的に使おうという意識が低いとか、出し惜しみしているなど、最悪の場合、やる気がないと受けとめられてしまいます。そうなると、評価も上がりませんよね。
3 頼りにされない
出し惜しみという印象は、‘いざという時’が訪れた時に与えるマイナス効果ですが、特技や才能を示す‘いざという時’がないまま終わってしまうという場合もありますよね。そういう場合は、自信がないように思われているため、頼りにされにくく、組織に貢献するチャンスを逃してしまうことになります。
つまり、爪を隠しておいた場合のメリットは主に人間関係に現れ、デメリットは能力評価に現れると言えそうです。
組織で爪を隠さない場合
メリット
1 自己理解力が高いと評価されます
自分の強みを把握して言語化できることは、欧米を中心とした自己主張を基調とするビジネス文化では、自分の活かし方を理解している人物として評価されます。
2 存在感を発揮できます
自分の特技や才能を周りの人と共有できているので、自他ともに認めるその道に明るい人物として重宝され、存在感が増します。
3 仕事の満足度が高まります
自分の特技や才能を開示することにより、仕事のミスマッチを防ぐことができます。したがって、自分の仕事に対する満足度も高まります。
デメリット
1 自己顕示欲が強いと思われます
控えめを良しとする環境では、自慢話を聞かされている気分になり、自己顕示欲が強い、感じの悪い人物として受け止められる場合があります。
2 口ほどでもないと思われる
自分が伝える特技や才能が周囲の期待値に届かないと、口ばっかりで期待外れだと思われてしまう可能性があります。
3 人間的な奥行きを伝えにくい
相手の知らない一面を自己開示したり言語化することで、他者に公開する部分が多くなるので、もっと隠された一面があるかもしれないというような奥行きを感じさせにくくなります。
爪を隠さない場合のメリットは、自分の能力を活かせる仕事をする機会を得やすい環境づくりに役立ち、デメリットは、周囲との認識のギャップとして現れると言えそうです。
能ある鷹は爪を隠すべきか、隠さないべきか?
極言すれば、爪を隠しておけば人間関係に、隠さなかければ仕事での満足度にプラスに影響することが分かりました。したがって、どちらの生き方がよいのかは、あなたの価値観次第です。
私自身は、爪は隠さないでも良いのではないかと考えます。その考え方を2つ、次のようにお伝えします。
- 考え方1
最近よく耳にするジョブ型雇用では、仕事に対して条件の合う人物を配置するという働き方です。仕事とのミスマッチを防ぐために有効であるとして、今後、従来のメンバーシップ型からの移行が進むと考えられています。そういう状況では、自分の特技をきちんと言語化することが大事です。
- 考え方2
ジョハリの窓を応用して考えてみます。
ジョハリの窓は自己理解を深めて人間関係やコミュニケーションの円滑化を図る手法として知られているものです。図のように、①自分も他者も知っている自分、②他者は知っているけれども自分が気づいてない自分、⓷自分は知っているけれど他者は気づいていない自分、④自分も他者も知らない自分の4つに分類されます。自己開示の度合いを確認し、通常は、①を広げることを目指します。
「能ある鷹は爪を隠す」をジョハリの窓に当てはめれば➂にあたる部分の話になります。自己開示を進めてありのままの自分を知ってもらえれば、親近感が増し、組織や社会により効果的に貢献ができます。
ただし、いずれの考え方についても、‘どのように情報共有するのか’という姿勢が大事であることは言うまでもありません。
まとめ
ビジネスにおいて、「能ある鷹は爪を隠す」ということわざ通り爪を隠しておいた方が良いのか、それとも爪を隠さないほうが良いのかについて、主なメリットとデメリットを挙げて整理しました。
メリットに着目すれば、爪を隠しておけば人間関係に、隠さなければ能力評価に良い影響があることが分かりました。どちらが良いのかは、結局皆さんの考え方次第です。
一方、今後主流となりそうなジョブ型という働き方においては、自己開示の方法次第で、爪を隠さなくても良いという考え方ができます。仕事関係者との信頼関係構築がビジネスの基本と考えれば、自分の特技を開示して組織で自分を活かすことはますます大事になると言えるでしょう。