国家資格キャリアコンサルタント集団が斬る仕事論

日本の組織ではなぜ情報伝達が間接的なの? 階層的組織での具体化と抽象化

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国家資格キャリアコンサルタント、GCDF (Global Career Development Facilitator-Japan)、異文化通訳。 欧州系メガバンクで7年、日本の学術団体で20年にわたり国も専門も違う人たちが協創する場で橋渡し役を務める。約30か国の人と関わり、現在4大陸5か国の友人と交流中。 職場で、言葉や文化的背景が違う人とコミュニケーションを図ることに戸惑いを感じている人にヒントを提供。 問題を解決するには‘どうやって’ではなく‘なぜ’を繰り返し考えることが大事。広い視野、新たな視点を持てるように支援。 『ブレイクスルー ―イノベーションの原理と戦略―』 (オーム社) 共訳。 中学校教諭1級、高等学校教諭2級普通免許(英語)、TOEIC 915点。

日本の組織では、「直属」の上司や先輩から指示が出ることが多い。提案や意見なども「直属」経由で上げていく。「直属」など関係なく、必要な人に直接話をすればいいじゃない?
間に人が入ると、時間がかかるし、途中で情報が歪むことだって考えられる。何よりも、間に入る人の仕事が増える。

最近、上司から後輩に伝えておいてと言われたのだけれど、私が伝える意味はあるのかな?直接伝えてもらったほうが良いのに。

そんなモヤモヤ感を抱えながら日本の職場で仕事をしている外国籍の皆さん、若手社員の皆さんに、異文化翻訳が得意なキャリアコンサルタントのMIYUKIがヒントを提供します。

日本の組織の特徴

まず最初にお伝えしたのは、日本の組織は階層的であるということです。情報伝達が誰かを介して間接的に行われるのは、この階層組織の特徴です。したがって、このブログでは、階層組織で働くことを前提にしたときに、間接的な情報伝達をどう捉えたらよいかについて3つの考え方を提案したいと思います。

その前に、日本の組織が階層組織である理由について少し触れておきます。

日本では、役員から中間管理職を経て職員に情報が具体化されて伝わっていきます。職員から中間管理職を経て役員へは、抽象化しながら伝わっていきます。そういう情報の流れ方が相応しいと考えられてきたのです。具体化と抽象化については、わかりやすい例を挙げておきましょう。

具体化の例(火事の通報)

役員が「火事だ!」と言うと、中間管理職が「本店が火事だ!」と職員に伝え、職員が「本店の5階が火事だ!」と119番通報するという具合です。

抽象化の例(防災対策)

職員が「火事に備えて部屋に消火器が欲しい」と言うと、中間管理職が「火事だけでなく地震のことも考えてヘルメットや懐中電灯を備えたい」と役員に伝える。役員は全社的に防災管理を考える、という流れになります。

なお、階層的な組織とフラットな組織の違いについては、最後にお話ししたいと思います。

考え方1 クッションの役割

仕事で上から情報が伝わる場合は、指示、激励、叱責が考えられますよね。
もし、役員から直接話があったら、どうでしょう?

現場を把握していない役員が、忙しい時に指示を出してくるかもしれません。高圧的な態度を取られると、たとえ指示に対して意見や疑問があっても、伝えたり確認したりしにくくて、「はい」しか言えないかもしれません。
激励なら嬉しいけれど、叱責されたら?

そんな時、直属の上司からなら、現場の状況を把握しているはずですから、指示について交渉したり、叱責に対して事情説明が出来たりしますよね。

つまり、間に入る上司や先輩は、クッション材の役割を果たしてくれていると考えることができるのではないでしょうか。自分が間に入る時も、クッションの役割を果たすことが期待されていると意識してみると、なんで自分が?というネガティブな感情が薄らぐかもしれません。

考え方2 異文化翻訳の必要性

私は自分のことを異文化翻訳が得意だとお伝えしています。これは言葉に象徴されるような国の違いのことを必ずしも指しているわけではないのです。年齢、性別、専門性など人はそれぞれ異なる背景を持っており、それにより価値観も違います。そういう時は、両方の仲立ちをできる人がいることでコミュニケーションが円滑に進みます。

職場では、役員、中間管理職、職員という図で考えてみるとわかりやすいかもしれません。

  • 役員は組織全体を俯瞰的に見て意思決定をすることが期待されていますので、現場の細かい状況をすべて把握することは難しい。「明日、そと」で起こっていることに意識が向けられているのです。
  • 現場で働く職員は、組織全体としてよりも「今、ここ」で起こっていることに意識が向けられています。
  • 中間管理職は、現場の様子もある程度把握できていますし、組織上層部の意思決定についても理解できる立場にあります。だからこそ、上層部の意思決定の伝達や指示にあたって、職員が理解しやすい言葉や説明を補いながら、伝えられる立場にあるのです。また、職員の不満や現場の意見も、意思決定者である上層部を説得できる言葉と形式で、職員に代わって交渉できるのです。

仲介をするときには、自分だからこそできる仕事だと考えて、伝え方を工夫してみても良いのではないでしょうか。伝え方が難しい情報であればなお、その経験を対顧客、対部外関係者との実務においても生かすことができると前向きに考えてみてはいかがですか。

考え方3 組織の活性化

平成30年度厚生労働省の統計「労働者調査」によると、職場でのストレスの原因が対人関係だという回答が約3割となっています。そして、ストレスを感じた時に実際に相談する相手はというと、上司・同僚と回答した人が7割です。つまり、指示や忠告を受けたり、逆に相談がしやすいのは、身近な上司と言えます。

それでは、自分がAさんとBさんの仲立ちをする立場だと考えてみましょう。直接情報伝達が行われれば、A↔Bでコミュニケーションの接点は1か所。間接情報伝達の場は、A↔自分、自分↔Bとなり接点は2か所になります。たとえ半分強制的に与えられた機会であったとしても、接点が増えればコミュニケーション量は増えます。普段から接している上司や仲間ならなお、普段関わりのない相手と比べて、齟齬のないコミュニケーションが取れると考えられます。

このようなコミュニケーションは、職員同士の連携を促し、組織の活性化に役立つと言ってよいでしょう。

階層的な組織とフラットな組織

日本の組織では、情報の伝達が縦方向かつ間接的に行われることについて、前向きに捉えるための3つのヒントをお伝えしましたが、そのような情報伝達になるのは、組織が階層的であるためと言えます。これに対して、海外の組織はフラットだと言われます。個人が責任を持って自立して動くことが求められています。他者との連携においても間に人を挟むことなく必要な人と直接コミュニケーションをとります。

フラットな組織での直接的なコミュニケーションの例として、私が外資系企業で働いていた時の話を2つ紹介します。

入社して3か月のある日、いきなり他部署の外国人に話しかけられ、自分のオフィスに来るようにと言われました。「自分の部署で働かないか?」とうオファーでした。人事でも上司でもなく、それまで無関係だった人から部署異動の話をされたのにまず驚きました。2回目の驚きは、「上司に相談してからでないと決められない」と言う私に「あなたが今の仕事と自分たちの仕事とどちらに興味があるか、問題はそれだけだ」と言われたことでした。3回目の驚きは、上司にとっては寝耳に水の話だったことです。

普段直接話すことはない役員が怖い顔をして現れたと思うと、課長でも部長でもなく、私のところに直接来て「あなたの稟議書に署名はできない」と書類をたたきつけて去って行ったのです。理由は、稟議書の提出が遅すぎるということでした。二度と私の稟議書に署名はできないとさえ言われました。上司よりも上の立場の人に叱責されるなんて、私にとってはショックを通り越して絶望でした。しかも遅れたのは、私の責任ではなく、指導役の対応が遅かったからでした。もちろん、そんな言い訳を役員にすることも私にはできませんでしたし、その指導役も黙ったままでした。

この2例からわかることは、まさに、自己責任、自己管理が基本となるフラットな組織での情報伝達の行われ方です。フラットな組織では、間に人を挟む間接的な伝達ではスピードが落ち、生産的でないという考え方につながります。

では、もし階層的な組織だったら?

最初の例では、他部署からのオファーについて、直属の上司から見た私の評価に基づき、異動に伴うプラス面やマイナス面など上司の見方が反映された形で情報伝達が行われたかもしれません。
二つ目の例では、まず、部長が役員に叱責され、課長と共有した後、私に指導があったでしょう。私は役員の怒りの理由を間接的に受け止めながらも落ち着いて事情説明ができたと思います。間に入った部長や課長は、部署内の課題に気づいて対処ができたと思います。

つまり、階層的組織では、管理者は部下を管理監督し、他部署から部下が圧力をかけられて不利な立場に立つことを守る存在なのです。したがって部下は、学びながら成長していけると言えます。一方、スピード感や柔軟性に欠けてしまうことは否めません。

ちなみに、2つ目の例の後、役員の怒りにだんまりを決めていた指導役が謝ってくれて、部長が役員に事情説明してくれたので、私は無事に仕事を続けることができました。

まとめ

日本の組織では、情報が人を介して間接的に伝達されます。これは、伝統的で階層的な組織構造によると考えられます。必要な人と直接連絡を取る方法に比べると、スピード感や柔軟性が失われてしまうというネガティブな見方もありますが、前向きに考えるヒントを3つお伝えしました。「クッションの役割」、「異文化翻訳の重要性」と「組織の活性化」です。

情報が上から下に流れる時には具体化され、下から上に流れる時には抽象化されると考えると、納得できるところもあるのではないでしょうか。

それぞれの組織の良い面に目を向けて前向きに考えることが、異文化組織、多国籍の仲間と働くうえでますます大事になるのではないでしょうか。

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国家資格キャリアコンサルタント、GCDF (Global Career Development Facilitator-Japan)、異文化通訳。 欧州系メガバンクで7年、日本の学術団体で20年にわたり国も専門も違う人たちが協創する場で橋渡し役を務める。約30か国の人と関わり、現在4大陸5か国の友人と交流中。 職場で、言葉や文化的背景が違う人とコミュニケーションを図ることに戸惑いを感じている人にヒントを提供。 問題を解決するには‘どうやって’ではなく‘なぜ’を繰り返し考えることが大事。広い視野、新たな視点を持てるように支援。 『ブレイクスルー ―イノベーションの原理と戦略―』 (オーム社) 共訳。 中学校教諭1級、高等学校教諭2級普通免許(英語)、TOEIC 915点。










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