なぜ日本人はすぐに謝るのか?日本で働く外国人が知っておきたい謝るスキル
日本人はすぐに自分が悪くなくても「ごめんなさい、すみません、申し訳ありません」と謝るのは何故?
ビジネスの場でそんなことをして大ごとになったらどうするつもりだろう?
そんな疑問を持ったことはありませんか?
自分のせいではなかったら謝りたくないし、自分のミスだったとしてもせめて事情説明を先にしたい。けれど、言い訳は潔くないと思われているみたいだし、何よりもまず謝ることが先決のようだ。
日本で働くには、やっぱり「謝る」というスキルが必要なのだろうか?
どうしたら抵抗なく謝れるだろうか?
外資系企業と日系非営利団体で約30年間多国籍のビジネスパーソンに接してきた経験をもとに、キャリアコンサルタントのMIYUKIが、得意な異文化通訳の力を発揮してヒントを提供したいと思います。
「謝る」ことについての意識の違い
自分のせいでなくても謝る日本人と謝まらない外国人の違いはどこにあるのでしょうか?「謝る」ということについてどんなふうに意識しているのかみてみましょう。
外国人は謝るのが苦手?
外国人の皆さんにとって「謝る」というのは、「自分の非を認めて責任を感じること」という意識が強いのではないでしょうか。だから、因果関係がはっきりしていない時点で謝るなんて、とんでもない! 責任問題にでもなったら大変だ!と思うのでしょうね。そう考えたら、簡単に謝れるわけがないという理屈も納得できます。
私が働いていた外資系の企業でも、すぐに謝ってはいけないと言われた記憶があります。「ごめんなさい、すみません」と言うたびに、なんで謝るの?と言われました。つい軽い気持ちで「すみません」と言ってしまうタイプだったので、意識をコントロールするのに苦労しました。
また実際に、外国人の同僚に仕事上のミスを注意しても、フーンと流されたり、事情説明をされることが多かったです。「自分が悪いのでなく、そういうミスが起こってしまうシステムが悪い」と言われてあっけにとられたこともあります。ヘリクツとも言えますが、私は「なるほど」と変に納得してしまいました。
だからといって、「外国人は謝らない」と断言することは危険です。
非営利での国際協力の場においては、海外からごく普通にお詫びのメールが届いていました。私自身は、相手のミスや問題点を指摘するにも気を遣い、言葉を選んでいましたが、とても自然にお詫びされて拍子抜けしたことを覚えています。「協力・協働」が前提の場では、責任の所在を明らかにしても役に立たないからです。
日本人は何故謝るの?
日本人は、あまり抵抗なく謝れる人が多いように思います。そもそも責任問題になったらなんて考えるより、目の前の相手が気分を害していたら、謝るしかないと思うのです。不愉快な思いをしている相手に理路整然と事実関係を説明しようとしても、聞く耳を持たず、さらに怒りを助長する恐れさえあります。言い訳するな!と言われる場合もあるでしょう。
まず謝ることで相手の気持ちを静めようというのが日本流。まず謝って、それから事情説明したり事実関係を確認するほうが円滑に事が進むからです。特にヒトを相手にする営業職や接客業では、まず謝ることがその後の展開を左右したりします。まず謝ることで相手の気持ちに共感的理解を示して、信頼関係を維持しようとする姿勢を示すのです。
ところが最近では、責任問題に発展するといけないから「謝らないように」と指導される職場もあるようです。車と車の衝突事故の時には、余計なことは言わずに第三者を呼ぶことで自分の立場が不利になることを防ぐという話も良く聞きます。つまり、日本人にも謝ることが責任を認めることにつながりかねないという意識はあるのですが、責任うんぬんよりも相手との関係を重視する傾向が強いというのが実情なのです。
ちなみに、「ごめんなさい」、「すみません」、「申し訳ありません」の違い、わかりますか? ビジネスでお詫びの気持ちを表すときには「申し訳ありません」を使います。「すみません」は軽く謝る感じ、「ごめんなさい」は視点が自分自身に向いていて、許して欲しいという意味になりす。状況によって使い分けてくださいね。そして、これがあとでお伝えするポイントにもなるのです。
どうしたら苦手意識を持たずに謝れるのか?
謝るという苦手意識を克服するカギは、「謝ることは、責任問題に発展する」という意識をコントロールすることにありそうです。
責任問題に発展するようなリスクを取らず、相手との関係も壊さないような謝り方があれば、苦手意識を克服できるのではないでしょうか。そういう方法が1つだけあります。
「不愉快な思いをさせて、すみません(申し訳ありません)」と頭を下げるのです。
不愉快な思いをさせて、すみません(申し訳ありません)
この方法なら、
- 相手が不愉快な気持ちになったことについて理解を示すことができます
- 「すみません(申し訳ありません)」の対象は起こったこと(ミスなど)ではなく、相手の気持ちに対する言葉なので、責任を負うことになりません
- 「すみません」は先にお伝えした通り軽く謝る程度、Excuse me感覚で使われます。本来ビジネスでは「申し訳ありません」を使うのですが、抵抗感がなくなるまで「すみません」を使ってみましょう
こういう風に意識コントロールすることで、言葉にしやすくなると思いますがいかがですか?
相手への配慮を示した後、誠実な態度で、起こったことの事情説明や対処法について話を展開させていきましょう。
頭を下げる
頭を下げることに抵抗を感じる場合には、次のように意識してみてください。
- 日本では挨拶と頭を下げることがペアになっている
- 頭を下げていれば相手の表情が見えないので、平常心を保ちやすい
- 「頭を下げる」を「足元を見る」、と意識するのも良いと思います
「不愉快な思いをさせて、すみません(申し訳ありません)」と言って自分の足元を見る。試してみてください。
ほかに方法はないのでしょうか?
そうはいっても、すぐに実行できるかな?と自信が持てない方には、一つだけアドバイスがあります。
最初から自分の言い訳や事情説明をするのはやめましょう。
まずは相手の話に耳を傾けて気持ちをしっかり受け止めることをお薦めします。信頼関係を維持出来れば、挽回のチャンスはいつかやってきます。
知っておきたい謝らないリスクと謝るリスク
苦手意識を持たずに謝る方法をお伝えしましたが、ここでもう一度「謝ったらどうなるのか」、「謝らなかったらどうなるのか」、それぞれのリスクについて慎重に整理しておきたいと思います。
謝らないリスク
苦手意識をもたずに謝る姿勢を示す方法をお伝えしましたが、それでも責任問題になることを恐れて謝れなかったらどうなるでしょう?
あなたが相手の立場だったらどうですか?
相手に期待するのは誠実な態度ではないでしょうか?なぜなら、ビジネスは信頼関係の上に成り立っているからです。
相手の立場や気持ちを無視して、自分の責任にならないように保身をはかることが先になるなら、それまでの信頼が揺らいでしまうのではありませんか?その後のビジネス機会まで失うリスクだってあります。
信頼関係を築くには時間がかかるものですが、失うのは一瞬です。このような視点も、自分の意識をコントロールして謝るのに役に立つかもしれません。
謝るリスク
一方で、謝る場合にもリスクはあります。
まずは、あなたの一言が責任問題につながるリスク、つまりあなたが今恐れていることですね。これは、誰が、誰に、何に対して発しているお詫びの言葉なのかを明確にすれば、必要以上に恐れる必要はないのです。これを一番シンプルにまとめると、「不愉快な思いをさせて、すみません(申し訳ありません)」になるわけです。
そして、気持ちのこもっていない謝り方のリスクです。口先だけで繰り返された言葉は、受け取る側にも伝わってしまうもの、謝れば良いというわけではないのです。相手に対して誠実に向き合う心構えが言葉になることに意味があるのです。
謝らなくても、謝ってもリスクはあります。両方のリスクを知ったうえで、苦手意識をもたずに謝る方法を実践することをお薦めします。
まとめ
ミスや問題を起こしたとき、素直に謝れたら気分がすっきりしますよね。
でも、ビジネスの場面では、「責任」という言葉がチラついてしまい、ぎこちない態度を示してしまうものです。そういうときは、「不愉快な思いをさせて、すみません(申し訳ありません)」というフレーズを実践してみてください。
ビジネスは人と人との信頼関係の上に成り立っていることを思い出しましょう。相手の立場になって考えてみること、誠実な態度を実践することで、心の鎧を脱ぐことができるかもしれません。それが、苦手意識を持たずに謝れるようになる早道だと思います。