【退職金制度導入と助成金】中小企業退職共済(中退共)制度利用で人材定着へ

「社員が定着せずに辞めてしまう・・・」
「優秀な人材を確保したい・・・」
など人材不足で悩んでいませんか?
人材を確保するには、福利厚生を充実させることが重要です。
実は、法律では定められていない退職金を設けることも、福利厚生を充実する1つです。
そこで今回は、「中小企業退職共済制度」を導入すると、社員だけではなく会社にとってもメリットがたくさんあるのでご紹介します。
この記事では、社会保険労務士有資格者である@渡邉円がこれまでたくさんの中小企業の規定を見させていただいた経験から、「中小企業退職共済制度」をオススメする理由や退職金制度を導入することで申請できる助成金の活用についてもご紹介します。
退職金制度とは
退職金制度の現状、受け取り方法
- 退職金制度のある会社ってどのくらい?
- 退職金の受け取り方ってどういう方法がある?
上記、ご存知でしょうか。
受け取り方には、「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2通りがあります。
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」(2018年)によると、いずれかの受け取り方をする退職金制度がある企業は80.5%となっています。
企業規模別で退職金制度がない企業は、
1,000人以上:7.7%に対して、30~99人:22.4%
と企業規模が小さくなればなるほど退職金制度がありません。
産業別で退職金制度がある割合は、
鉱業、採石業、砂利採取業:92.3%
電気・ガス・熱供給・水道業:92.2%
に対して、
生活関連サービス業、娯楽業:65.3%
サービス業(他に分類されないもの):68.6%
とサービス業を中心に退職金制度がない企業が全体的に多いです。
- 「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2通りの受け取り方がある
- 退職金制度がある企業は、全体の約8割
- 企業規模が小さくなればなるほど、退職金制度がない割合が高い
- サービス業を中心に退職金制度がない割合が高い
中小企業は、わが国の雇用の7割近くを担っています。
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」(2018年)では、従業員が10~299人の東京都内の中小企業を対象に調査し、回答企業1060社中、退職金制度がある企業は756社(71.3%)となっています。
受け取り方法の内訳は
- 退職一時金のみ:574社(75.9%)
- 退職一時金と退職年金の併用:156社(20.6%)
- 退職年金のみ:26社(3.4%)
と、この調査では約7割の企業で退職金制度があり、「退職一時金」で払う企業が約75%でした。
- 10~299人の東京都内の中小企業では、退職金制度がある企業は約7割
- 退職一時金のみで支払っている企業は、約75%
これまで私が対応させていただいてきた中小企業もこの統計とほぼ同じか、やや退職金制度を導入していない会社が多かったかなといった感じです。
では、これから退職金制度を導入したいと思っている事業主様にとって、将来支払う退職金を準備する方法はどうしたら?と不安になると思います。
どのような方法があるのかについて見ていきましょう。
退職金の支払準備方法
東京都産業労働局の統計では、約75%の中小企業が「退職一時金」として支払っていました。一時金で支払うためには、退職時にまとまった現金が必要になります。
定年退職をされる従業員には退職の時期があらかじめ分かっているので、資金の準備をすることができます。
しかし、自己都合退職の場合には、いつ現金が必要になるかがわからないため、資金繰りの調整が難しくなります。
そこで、資金繰りに不安という事業主様にオススメしたいのが、企業年金制度の一つである「中小企業退職共済制度(以下、中退共制度)」の利用です。
中退共制度では、定期的に積立を行っているため、急にまとまった現金が必要になるということもありません。
中退共制度がオススメな理由
独力では退職金制度を導入することが難しい中小企業のために、国がサポートする退職金制度
国がサポートしている制度なので、安心・安全です。
安心・安全な上、中小企業の従業員や会社にとって加入のメリットがたくさんあります。
中退共制度の加入のメリット
1:掛金の一部を国が助成(一部除外あり)
新しく中退共制度に加入する事業主や、掛金月額を増額する事業主に、掛金の一部を国が助成してくれる。
新規加入時:掛金月額の1/2(従業員ごとに5,000円が上限)を1年間(最高6万円)助成
月額変更時:18,000円以下の掛金月額を増額する事業主に増額分の1/3を1年間助成
2:管理が簡単
掛金は口座振替なので手間がかからない。
毎年、従業員ごとの納付状況や退職金の試算額を事業主にお知らせしてくれます。
3:掛金は非課税
掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税となります。
(注)資本金の額または出資の総額が1億円を超える法人の法人事業税には、外形標準課税が適用されます。
4:掛金月額が選べる
掛金は全額事業主負担で、従業員ごとに掛金月額を選択でき、加入後は、いつでも増額できます。
(注)掛金月額を減額する場合は、一定の条件が必要です。
5:通算制度でまとまった退職金がもらえる
一定の要件を満たす従業員については、掛金納付月数などの通算ができます。
6:退職金は直接従業員へ振り込み
退職金は、勤労者退職金共済機構から直接、退職者の預金口座に振り込みますので、手間がかかりません。
従業員にとっても、会社の状況に関係なく必ずもらえるので安心です。
7:従業員の福利厚生に利用できる提携サービスがある
加入企業の特典として、勤労者退職金共済機構・中退共本部と提携しているホテル、レジャー施設等を割引料金で利用できる。
福利厚生の充実になり、従業員にとって嬉しいことです。
8:解散存続厚生年金基金からの移行先の一つ
平成26年4月以降に解散した解散存続厚生年金基金から中退共制度へ移行の申出ができます。
9:同居の親族の加入可能
一定の加入条件はあるものの、家族従業員でも加入することができる。
1年間ではありますが、国が掛金の一部を助成してくれること、掛金が非課税になることが最大のメリットではないでしょうか。
中小企業の半数が利用
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」(2018年)では、中退共制度の導入をしている企業が48.5%と、約半分の企業が採用しています。
「社内準備」だけでは不安であり、定期的に積立を行っていくことにより、資金ショートのリスクを回避していることがわかります。
中退共制度のデメリット
とは言え、デメリットもあります。
1:従業員は原則全員加入
期限を定めて雇用される従業員、試用期間中の従業員、短時間労働者や定年などで短期間内に退職することが明らかな従業員は加入させなくても構いません。
加入させようとする従業員の同意が必要です。
2:短期間で退職の場合は支払われない
掛け始めて1年未満で退職すると退職金は支給されません。
1年以上2年未満の場合は、掛金納付総額を下回る額になります。
3:掛金は月額で最低5,000円から
1人当たり年間で最低でも60,000円の固定費増となります。
ただし、掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税となりますので、税金対策になります。
4:掛金を減額することは難しい
減額するには従業員の同意が必要になります。
1年未満で退職が続いている職場では、掛金が掛け捨てになってしまい、もったいないと感じますが、従業員が定着して働いてほしい、優秀な人材を確保したいとの思いから福利厚生を充実させて離職率を下げるという目的で導入するのであれば、中退共制度の導入は有効ではないでしょうか。
退職金制度導入の手順
就業規則に定める場合、以下の3点について明記が必要です。
- 退職金制度の対象となる従業員の範囲
- 退職金の額の決め方、計算方法、支払方法
- 退職金の支払い時期について
- 退職金制度は一度導入したら、支給額を減額したり、廃止したりすることは簡単にはできません。
- 就業規則に定めなくてはいけない3点について、事前にしっかりした準備が必要です。特に額の決め方や計算方法について、給与や賞与とのバランスなども考えながらシュミレーションされるのをオススメします。
- ネットで探すと規定のひな形もあり、自社にて作成することも可能ですが、一度導入したら変更するのは難しいため、専門家に依頼した方が確実です。
中退共制度のパンフレットには、掛金の決め方や規程のひな形が載っていますので、こちらもご参考に。よくわかる中小企業退職共済制度
退職金制度を導入することで申請できる助成金
今回活用できる助成金は、「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」です。
この助成金は、会社が退職金制度を導入し、雇用管理改善を行い、離職率の低下に取り組んだ場合に活用できる可能性があります。簡単にいうと、退職金制度を導入したことによって、退職する人が導入前よりも設定された割合に減っていれば、目標達成となり助成されます。
少し理解するには難しいのですが、詳しい内容をみていきましょう。
支給までの流れ
雇用管理制度整備計画の作成・提出↓
認定を受けた雇用管理制度整備計画に基づく雇用管理制度の導入
↓
雇用管理制度の実施
↓
目標達成助成の支給申請(算定期間(計画期間終了後12か月間)終了後 2か月以内)
↓
助成金の支給
<目標達成助成> 57万円 (生産性要件を満たした場合72万円)
ざっとした流れは上記のようになります。
きっと初めて目にされた方には「???」のはずです。
そこで、この助成金で注意したいポイントをピックアップしました。
- 雇用保険、社会保険(適用事業所に雇用されている場合)の被保険者である正社員がいること
- 雇用管理制度整備計画の期間は「3ヵ月以上1年以内」であること
- 退職金制度を労働協約または就業規則に明文化すること
- 離職率を目標値以上に低下させること
助成金は、条件がマッチすれば申請後、受給できるものです。
会社で申請することは可能ですが、準備する書類なども多く、申請する期間も決まっています。本来の業務に支障をきたしては元も子もありません。
もし委託されている社労士がいらっしゃればご相談の上、ご活用してくださいね。
まとめ
今回、「社員が定着せずに辞めてしまう・・・」「優秀な人材を確保したい・・・」など人材不足で悩んでいる中小事業主様へ、社員との信頼関係を築き、安心して働ける職場・社員の意欲や生産性の向上ができるような退職金制度の導入についてご紹介させていただきました。
退職金制度を新しく導入するには、就業規則等への規定・周知が必要です。
また、助成金を活用するためには、各書類の準備など煩雑な作業が必要です。
しかし、条件が合えば初期負担もなく、返済することもない助成金を申請しない手はありません。
よく分からないから・・・、面倒くさそう・・・・と思わず、退職金制度の導入、助成金の申請を検討してみてくださいね。
社員も会社も笑顔になれますように☆