産前産後の従業員に対する就業制限とは?会社の対応・配慮について
※妊娠中の女性労働者の新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置を追加しました。
産休・育休を取り、その後職場復帰される女性が増加しています。
経営者の皆様から、産前産後の女性従業員に対して、会社が配慮することってあるのでしょうか?
というお問い合わせをいただくことがあります。
産前産後の従業員に対して、男女雇用機会均等法や労働基準法で様々な対応が求められています。
法律の条文を読んで理解するのは難しいところもありますので、社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタントの渡邉円が、自身の経験も加えながら、分かりやすくご紹介していきますね。
産前産後の従業員に対する就業制限とは?
産前産後の従業員に対して、なぜ就業制限が必要なのか
妊娠中又は出産後も働き続ける女性が増加しています。
妊娠・出産は病気ではなく生理的な現象と捉えることができますが、女性にとって極めて重大なイベントであり、母体にとって大きな負担であることは明らかです。
そのため、妊娠中又は出産後の女性労働者の母性を守る目的で、会社に対して義務付けられています。
男女雇用機会均等法では、妊娠中又は出産後の健康診査のための時間の確保や、妊娠中の症状等に対応するための措置を事業主に義務づけています。
男女雇用機会均等法で定めるこれらの措置を「母性健康管理の措置」といいます。
また、労働基準法では、産前・産後休業や妊娠中及び出産後の危険有害業務の就業制限をはじめとする諸々の母性保護が定められています。
では、順番に見ていきましょう。
会社の対応①【男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置】
男女雇用機会均等法では、以下のいずれも、従業員から請求があった場合に対応が必要なものです。
保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保
事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導又は健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければなりません。(法第12条)
受診の時間を確保することが困難な場合がある事から、必要な時間の確保を事業主に義務づけています。
確かに、産科の診察時間って平日の午前中や午後でも就業時間内のところが多いですよね。
1週間に1回や2週間に1回来てください、と言われてもなかなか難しいです。
ですので、従業員からの申出があった場合は、勤務時間の中で健康診査等を受けるために必要な時間を与えてあげてくださいね。
また、健康診査等を受診するために確保しなければならない回数も決まっています。
妊娠中
- 妊娠23週までは4週間に1回
- 妊娠24週から35週までは2週間に1回
- 妊娠36週以後出産までは1週間に1回
産後(出産後1年以内)
- 医師等の指示に従って必要な時間を確保する
健康診査等に必要な時間については、健康診査の受診時間、受診時間、医療機関等への往復時間、待ち時間を考慮に入れて、十分な時間を確保できるように労使で話し合って決めるのがオススメです。
妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性のこと
指導事項を守ることができるようにするための措置
妊娠中及び出産後の女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、その女性労働者が受けた指導を守ることができるようにするために、事業主は勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければなりません。(法第13条)
指導事項を守ることができるようにするための措置
- 妊娠中の通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮等の措置)
- 妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩回数の増加等の措置)
- 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、休業等の措置)
交通機関の混雑による苦痛は、つわりの悪化や流・早産等につながるおそれがあると言われています。
従業員から申出があった場合には、次のような対応をされることもオススメします。
- 始業時間及び終業時間に各々30分~60分程度の時間差を設けること
- フレックスタイム制度を適用すること
あくまで一例ですが、ラッシュアワーの混雑を避けて通勤することができそうですよね。
私も電車で通勤していますが、ラッシュアワー時の電車はしんどいです。
たまに少し遅く出勤することがあるのですが、30分ずらすだけで全然乗っている人の数が違っています。
妊娠中は、匂いに敏感であったり、お腹が張ったり、普段とは違う体調の変化があります。
満員の電車よりもゆっくり座って来られるような、少しでも負担が軽減されるような制度作りをしたいですね。
「母性健康管理指導事項連絡カード」について
母性健康管理指導事項連絡カードとは、仕事を持つ妊産婦が主治医等から通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合、その指導内容が事業主に的確に伝えられるようにするためのもの
従業員から提出された事業主は、母健連絡カードの記入事項にしたがって時差通勤や休憩時間の延長などの措置を講じる必要があります。
提出されて???とならないよう、この機会に知っていただけたらと思います。
詳しい説明や書類のダウンロードもできる厚生労働省のHPです。
母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について(厚生労働省)
会社の対応②【労働基準法における母性保護規定】
労働基準法では、必ず対応が必要なものと従業員から請求があった場合に対応が必要なものがあります。
必ず対応が必要なもの
産後休業
出産の翌日から8週間は就業することができません。ただし、産後6週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができます。(労働基準法第65条)
ただし、例外があります。
産後6週間を経過後に、女性本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務については、就業させることは差し支えありません。
産後6週間は、本人が希望しても就業することはできませんので、注意してくださいね。
妊産婦等の危険有害業務の就業制限
妊産婦等を妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせることはできません。(労働基準法第64条の3)
妊産婦を就かせてはならない具体的業務は、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所での業務をはじめ、女性労働基準規則第2条で定められています。
事務職や営業職などはほとんど関係ないのですが、特殊な業務に就いている従業員の方は、該当する場合もありますので、経営者の皆様がしっかり確認してくださいね。
従業員から請求があった場合に対応が必要なもの
以下のものは、従業員から請求があった場合に対応が必要なものですので、請求がない場合は会社から積極的に対応しなくても問題はありません。
産前休業
出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すれば取得できます。(労働基準法第65条)
予定日よりも遅れて出産した場合、予定日から出産当日までの期間は産前休業に含まれます。
産前休業は、予定日どおりに出産されない場合が多いので、取得日数が前後する可能性が高いですね。
ちなみに私も1人目は、予定日から1週間以上も遅れて出産しましたよ。
妊婦の軽易業務転換
妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません。(労働基準法第65条第3項)
軽易な業務がない場合、新たに軽易な業務を創設する義務はありません。
軽易な業務がなく、同じ業務でも
- 重労働部分を外す
- 仕事量自体を減らす
- 仕事のやり方を変える
- 休憩時間を増やす
など、従業員の方と話し合い、負担にならないような対応をとってみてはいかがでしょうか。
妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限
変形労働時間がとられる場合にも、妊産婦が請求すれば、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働する必要はありません。(労働基準法第66条第1項)
従業員から請求があった場合は、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできませんので、注意してくださいね。
妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限
妊産婦が請求すれば、時間外労働、休日労働又は深夜業をする必要はありません。(労働基準法第66条第2項、第3項)
労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」である管理監督者等については、請求により深夜業のみが禁止されます。
妊産婦であっても、例外はありません。
最近は、女性の管理職割合も増加し、該当される方も昔に比べて増えていますね。
育児時間
生後1年に達しない子を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30分間の育児時間を請求できます。(労働基準法第67条)
生児には実子のほか養子も含みます。
「1日2回」「少なくとも30分ずつ」の取得が可能とされていますが、これはフルタイム(8時間)勤務を想定した場合の設定です。
パートなどで1日の勤務時間が4時間以内(フルタイム勤務の半分以下)の労働者については、「1日30分」の育児時間を与えれば大丈夫です。
育児時間は、1日の労働時間のうち、いつでも取得することが可能です。
通常の休憩のように業務の中間に取得することもできますし、始業時刻直後や終業時刻直前に取得することも可能です。
活用法の一例
- 始業と終業の時間に30分ずつくっつけて、「30分遅れの出社」「30分早くの退社」を可能にする
- 始業または終業の時間に1時間分をまとめて、「1時間遅れの出社」または「1時間早くの退社」を可能にする
- 事後申請ができる場合は、朝の授乳や保育園の登園などで遅刻してしまった時間に育児時間をあてる
このように、育児時間を柔軟に活用することによって、育児と仕事の両立はぐんと実現しやすくなりますよね。
申請を受けてから慌てないように、事前に育児時間を無給とするのか有給とするのか、申請手順について、決めておかれるのがオススメです。
妊娠中の女性労働者の新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置
新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中、働く妊婦の方は、職場の作業内容等によって、新 型コロナウイルス感染症への感染について不安やストレスを抱える場合があります。
そこで、妊娠中の女性労働者の母性健康管理を適切に図ることができるよう、男女雇用機会均等法に基づく指針(告示)を改正し、妊娠中の女性労働者の母性健康管理上の措置に新型コロナウイルス感染症に関する措置を新たに規定されました。
厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する 母性健康管理措置について
改正の内容
妊娠中の女性労働者が、その作業等における新型コロナウイルス感染症に感染するおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、医師又は助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合には、事業主は、この指導に基づき、作業の制限、出勤の制限(在宅勤務又は休業をいう。)等の必要な措置を講じなければなりません。
適用の期間
令和2年5月7日(木)~令和3年1月31日(日)まで
まとめ
私が1人目を妊娠した頃は、法律の知識がなく、全く知りませんでした。
こんなにたくさんの事が法律に定められているなんて、夢にも思わず・・・。
しかし、現在は、インターネットの普及で、労使ともにすぐに調べることができますよね。
従業員からの申し出を基本としているものが多いですが、これらの内容を会社と従業員双方が正しく理解していることが必要です。
その他、まず誰に伝えればいいのか明確にするなど、スムーズに妊娠の事実を会社に伝えることのできる環境づくりも重要です。
会社として早めに事実把握することが出来れば、補充人員の確保の検討や引継ぎスケジュールなど、余裕をもった対応が可能です。
また、出産前後や育児期の体制も含めて、早い段階で職場の中で働き方について話し合うなどの対応を行うことは、職場の生産性を維持する上で必要なことではないでしょうか。
経営者の皆様にも従業員にも笑顔で働ける職場になりますように。