AI共存時代の社会・仕事はどうなる?生き抜くための能力、スキル4選
2015年 野村総合研究所(NRI)と英オックスフォード大学(Oxford大)マイケル・A・オズボーン準教授との共同研究において、国内601種の職業においてAI(人工知能)やロボットに代替(自動化)される可能性を統計解析によって試算したところ、10数年後に日本の労働人口の49%が従事している仕事が「AI・ロボットに置き換わる」という結果を発表しました。
マスメディアはすぐ「49%の仕事がなくなる」と騒ぎ始めました。
2030年には、労働人口の半分の仕事がなくなり、失業者があふれかえるのでしょうか。
今後のAIのテクノロジーの進歩によってなくなる仕事もあるでしょうが逆に新しく生み出される仕事もあるのです。
統計解析のシステムエンジニアの経験もある坪根克朗が、AI共存時代の社会、仕事はどうなるか、そしてそんな時代で生き抜くための能力、スキルについてお話していきます。
AI共存時代の社会・仕事とは?生き抜くための能力、スキルとは
日本では人口が減少し、少子高齢化が進んでいきます。
働き手が減っていく現状においては、AIと人間が共存せざる負えないAI共存時代になってきます。
そしてAI共存時代では、AIを道具として積極的に活用すると同時に、人間が担うべき質の高い仕事や、今後新たに生まれてくる仕事への労働力の移動が必要になってきます。そして、そのような時、生き抜く必要な能力、スキルは以下のようになります。
「49%の仕事がAI・ロボットに置き換わる」発表の意味
今回の研究は、AI・ロボットに置き換わる(自動化)可能性(確率で表現)について算出したもので「雇用」がなくなるとは言っていないのです。
そして、この研究の画期的な点は、以下の2点になります。
- 定性的にしか評価できなかった「AI・ロボットに置き換わる可能性」を定量的に算出
- 「置き換えることのできない仕事、特徴(思考)」を明確にした
分析ロジックと結果
どのような分析ロジックで「AI・ロボットに置き換わる」仕事の自動化の可能性を割り出したのでしょうか。
自動化算出方法
(参考)「日本におけるコンピュータ化と仕事の未来」(野村総合研究所)
社会は、すぐにAI.ロボットに置き換えない理由
注意したいのは、仮に技術的にAI・ロボットを使って置き換えることのできる仕事であっても、「社会の受容性」「費用対効果」「倫理的・法律的問題」等の理由によって、すぐにAI・ロボットに置き換えることはないということです。
社会の受容性
医療診断のようにAIが下した判断を社会がそのまま受け入れることができるかどうかといった問題になります。
例えば、AIから「あなたはガンで、余命3か月」と宣告されたらあなたは受け入れることができるのでしょうか。
費用対効果
AIやロボットで置き換えた仕事と人件費との兼ね合いの問題がでてきます。
例えば介護ロボットの開発が進んでいますが、ロボット費用や維持費といったものが、介護職員の費用を下回らないと導入にはいたらないということになります。
倫理的・法律的問題
AIロボットを使った医療行為や戦闘で使う兵器などでは倫理的な問題や法律の整備などの課題が出てきます。
AI.ロボットに置き換えることができない仕事とは
共同研究によって、「創造的思考」「社会的知性」を必要する仕事や「非定型」な仕事については、AI・ロボットに置き換えることはできないということがわかりました。
創造的思考を必要とする仕事
創造的思考とは、哲学・神学のように抽象的な概念を整理・創出したり、芸術のように今まで存在しない価値・作品を生み出す能力になります。
AIに置き換えるには、明確な指針(アルゴリズム)や規則がないとできません。
例えば、絵画にしても音楽にしても、創作し作曲するソフトはありますが、「感情に訴えかける作品」と「そうでない作品」を区別するアルゴリズムや規則を人間でもAIでも発見することはできないのです。
- 歴史学・考古学、哲学・神学
- 小説家、デザイナー、料理人、プロデューサー
社会的知性を必要とする仕事
社会的知性とは、「理解」「説得」「交渉」といった高度なコニュニケーションができる能力になります。
例えば、弁護士のような、「もめごとの和解や交渉をし、当事者間のよい落としどころで依頼人を説得する」といった仕事は現状AIではできないのです。
- 弁護士、企業経営者、経営コンサルタント
- 教師、プロジェクトリーダー
非定型な多種多様な状況に対応しなければいけない仕事
役割は体系化されておらず、マニュアルもなく多種多様な状況に対応する能力が必要とされます。
例えば精神疾患を患う患者さん対応の精神科医やセラピストまたは、多くの悩みに寄り添うカウンセラーといった仕事もAIに置き換えることはできないのです。
- 国際協力専門家
- 作業療法士・言語聴覚士
- メイクアップアーティスト
AI・ロボット化を進めるテクノロジーとは
今後よく使われるであろうAIの重要なテクノジー「パターン認識」「プロファイリング」「フィルタリング」についてお話していきます。
そして、その前にAIについても触れておきますね。
現状のAIは「特化型AI」
AIには「汎用AI」「特化型AI」の2種類あります。
- 汎用AI:人間のあらゆる感覚や判断力を持ち、人間と同じように仕事を遂行する
- 特化型AI:特定のタスクについて、人間と同様に処理することができる
SFや映画では、「汎用AI」がAIの全てという感じで登場してくるので、「AI=汎用AI」をイメージするでしょうが、現状、人間が作りあげてきたAIは、全て「特化型AI」しかないのです。
パターン認識
人間には簡単にできているが、コンピュータでは難しかった「パターン認識」がAI(機械学習)によってできるようになったことが大きな点になります。
パターン認識とは、コンピュータが図形や自然言語などからパターン(特徴)を認識し、理解することです。
人間は、見たものを高速に認識することができます。例えば、りんごやみかんといった果物を瞬時に見分けることができ、りんごとみかんを間違うことはありません。
なぜ、間違えないのでしょうか。
それは、りんごとみかんとの間に特徴(パターン)の違いがあるからです。
りんごとみかん、それぞれにあるパターンが存在します。りんごは赤い、みかんは黄色といったパターンです。
人間は、そのパターンの違いを瞬時に見分けるために、りんごとみかんを間違えないのです。
パターン認識の応用分野
- 文字認識:宅配、郵便など物流での仕分、課金の自動化
- 音声認識:音声での検索や、自動翻訳や通訳、コールセンターの顧客対応
- 動画認識:工場、医療、防犯分野での監視、見守り支援
- 製造の生産現場:製品検査(異音や振動データから不良品の発見)
- 農業現場:農産物の生育状況の監視、病害虫診断、収穫期予測
- 医療:CT/MRIの画像診断でガンの検出
プロファイリング
人間では難しかった「プロファイリング」もAIで充分対応できるようになったこともあげられます。
AIでのプロファイリングとは、AIが「個人の正確な嗜好」「個人の意見の推測」「個人の行動の予測」を行うことです。
この技術が最初に用いられたのが、インターネット広告分野でしたが、今では、「検索履歴」「SNSのデータや投稿履歴」「ブログ」などの大量の非構造化データ(つぶやき、音声、画像)をAIで分析することによってかなりの精度で個人のプロファイリングができるようになっています。
最近では、アメリカの大統領選では、Facebookデータを使い、政治的なメッセージを誰に対しても同じ内容のメールを送るのではなく「個人の思想」に応じて個別に送って投票行動につなげたという話もあります。
プロファイリングの応用分野
- 自動車保険:センサーを搭載した自動車の運転状況によって保険料を変える
- 健康保険:血液検査の結果から保険金の支払いを自動的に変える
フィルタリング
フィルタリングとは「分類」のことになります。
フィルタリングも人間は得意ではありません。
例えば、メールサービスでのスパムメール(迷惑メール)の排除は、AIフィルターを用いて自動判定しているのです。
このAIフィルターは、メールに含まれている言葉をみて、対象メールが迷惑メールかどうかを統計解析によって判定し、その可能性が一定率以上なら削除するといった仕組みになっています。
フィルタリングの応用分野
- 医療現場:AIが診察データ(CT/MRI画像)を用いて自動的に診断
- 製造現場:機械修理のための自動診断プログラム
- 銀行・証券会社:AIによる不正会計や金融取引不正の検知
- 金融不正取引の検知
AI共存時代のおける会社、仕事とは
それでは、AI共存時代の会社、仕事はどうなっていくのでしょうか。
AI共存時代の会社の在り方
一般に会社では、生産性を追求していくと、イノベーション(新しい製品やサービス開発)が生まれにくいと言われています。
今後は、AIが効率(生産性)を追求し、人間が持つ創造的思考を使ってイノベーションに取り組むことにより、会社において生産性とイノベーションの両立が図れる時代になってくるのです。
AI共存時代での仕事への取組み
AI共存時代では、新たにAIを導入・普及させるために必要な仕事が生み出されるほかに、個人の仕事の内容も変化が生じてきます。
AI共存時代に生み出される新しい仕事とは
AIビジネスデザイナー
経営者から経営課題をヒアリングでき、AIの概念を理解しているうえで、会社の経営課題をAIに落とし込む仕事になります。
データサイエンティスト
機械学習を導入するためのデータ構造の設計から実装まで取り組む仕事になります。
AIプログラマー
スクリプト言語(Python、R)を使っての機械学習や予測ロジック(統計解析)をプログラミングする仕事になります。
AIトレーナー
人間が行っている仕事(行動や仕組み)をAIに教える仕事になります。また、性能改善や不具合の原因を探る必要もあります。
AIワーカー
AIが組み込まれたソフトやサービスを使う仕事になります。
AI導入による個人の仕事内容の変化
仕事内容の変更
- 手書き情報のデータ入力作業が、画像認識により自動的に電子データ化されるようになった場合に、入力したデータをチェックする仕事に変更
- コールセンターの業務では、AIが示した最適な回答の選択肢から、適切な回答を見つけて顧客に答える仕事に変更
付加価値の高い仕事へのシフト
- 工場の選別作業では、ロボットでは選別できなかったものに特化して選別を行う仕事にシフト
- AIを用いて情報の可視化や分析していた場合、AIの分析結果を踏まえて結論を出す仕事へシフト
- 簡易審査を担当していた場合、AIでは判断が難しい審査する仕事にシフト
AI共存時代の課題
AI共存時代の課題にはどんなものがあるのでしょうか。
AIでは人間の持つ「汎化能力」を実現できない
AI(機械学習)で得られるのは、与えられた学習データに関してものだけです。
もっと広い範囲のデータに対して、答えを出すという「汎化能力」を持っていないことです。
汎化能力とは、「新しい状況に遭遇しても、既知の事柄との共通点を見つけ、既存のノウハウを活用し対応できる能力」
- 不正会計発見での活用の場合、過去に不正と判断された会計処理しか発見できない
- 採用でAIを活用している場合、過去合格した人に似ている特徴をもった人を選びだすだけであり、将来の会社の成長を考えた時、望んだ人という保証はない
このように、現状では、まったく新しい不正会計や新しい人材を見つけることができないのです。いうなれば「応用力」がないのです。
AI活用で格差が広がる
AIの活用によって、会社、個人の格差が広がっていく可能性があります。
AIに投資できる資本があるほど富を得ることになる一方で、AIに資本投入できない会社は、市場から撤退していくことになるでしょう。
個人に関しても、「AIに関する新しい仕事に就けた人」「付加価値の高い仕事にシフトした人」と、「人が行った方がAIを活用するよりコストが安い仕事に就く人」では格差が生じてしまうのです。
AI共存時代に生き抜くための能力、スキル4選
AI共存時代を生き抜いていくには、AIが苦手としている付加価値の高い仕事にシフトしていく必要がでてきます。
そのためには、AIではできない「汎化能力」「社会的知性」「創造的思考」といった能力やスキルを磨いていく必要があります。また、AIを活用するわけですから「AIに関する知識」も必要になっていきます。
そして、それらの能力の鍛え方ついてもお話してさせてもらいますね。
汎化能力
汎化能力は、ビジネスシーンでは、ビジネス上での課題への解決策をノウハウとして汎化して、新たな仕事へ適用する「ノウハウの横展開」に使われます。
そして、この汎化能力を向上させるには、日頃から以下のような行動が必要になります。
- 課題設定力の向上
- 課題を解決した方法などの知識や経験の絶対量を増やすこと
- 過去の課題との類似点を見つけ出すこと
社会的知性
社会的知性は、複雑な人間関係を生き抜く社会性や社交性、自分と他者を効果的につなぐコミュニケーション能力など、人が充実した社会生活を営む上で欠かせない知的資質を言います。
一般的な表現を借りると空気が読めるとか、オトナとして振舞うとか、そんなところではないでしょうか。
そして、社会的知性を向上させるには、「生存本能としての親密性」「理性的に働く自発性」「勤勉さ」が重要になります。
生存本能としての親密性
生来の自分らしく、誰とでも好意的に寛大に、心身共にリラックスし、協調的な人間関係を作りたいという気持ちを日頃からもつことです。
理性的に働く自発性
規範性が高く「責任を果たす、約束を守る、使命に徹する」を常に心がけ、緻密な計画を立てたうえで、設定した目標に果敢にチャレンジし行動する必要があります。
勤勉さ
社会的知性を磨く最後の条件としては、「勤勉さ」が重要になります。そして、その勤勉さは以下の3つの要素で構成されます。
- 素直さ:思い込みや偏見で物事に関わるのではなく、あるがままに観察する
- 熱意 :寝ても覚めても一事に没頭する熱心さ
- 誠実さ:規則、約束を守り、公平に真面目に対応する
創造的思考
創造的思考を磨いていくには、習慣化することが一番の施策になります。
日頃から創造的思考をしなければいけない環境(課題の抽出)を作り、他人からの評価を恐れないでアウトプットすることが必要になります。
創造的思考を鍛える習慣化された行動には以下のようなものがあります。
- 他の人があきらめた障害や課題を探し、挑戦する
- 問題に対して他の人とは違う捉え方、アプローチをする
- 他の人が怖くてできないような提案をあえてする
- 他人の反対意見を恐れない
- 味方を探す
AI関連知識
今後AIの発展にともなって、ビジネスパーソンは、AIに関する知識が必要になります。
データサイエンス
情報処理、AI、数学・統計学、データ可視化など知識
データエンジニアリング
データサイエンスを意味のある形に実装・運用する知識
まとめ
今後ますますAIが組み込まれたサービスが提供されてきます。
それをいち早く察知して活用していくことが、ビジネスパーソンの鍵になってきます。
PCしかり、EXCEL/WORDが発表された時を思いだしてください。
今では使えてあたりまえの製品です。
仕事で成果を出すために、AIが作りこまれたソフトとかサービスを当然のように使いこなせなければいかない場面が間違いなくきます。
世界では、個人が変化し続ける社会に適応するためには、生涯学び続けることの必要が言われており、『リカレント教育』の環境も整いつつあります。
人生100年時代いろいろ学んでいこうではありませんか。
「リカレント教育」とは、経済協力開発機構(OECD)が1970年代に提唱した生涯教育の一形態で、フォーマルな学校教育を終えて社会の諸活動に従事してからも、個人の必要に応じて教育機関に戻り、繰り返し再教育を受けられる、循環・反復型の教育システムを指します。
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