産業医・保健師を悩ます!健康上の問題でパフォーマンスが出ない社員の対応策9選
経営者の皆さん!!どちらの社員が会社の業績に悪影響を与える「困った社員」になるかわかりますか?
- Aさん「心身の健康上の問題で、たびたび欠勤する社員」
- Bさん「出勤しているのに心身の病気の関係でパフォーマンスがあがらない社員」
これまでの労務管理では、Aさんタイプの社員の生産性低下が問題視されていましたが、最近では、出社しているにも関わらず仕事に身が入らないBさんタイプ社員のほうが、会社全体の業績を著しくさげる「困った社員」になっているのです。
また、Bさんタイプの中には、「病気のためか」「無意識か」「意識的か」等原因は不明ですが、仕事を免除してもらったり、楽な仕事をアサインしてもらうといった疾病利得を得るような行動をとる以下の方々も含まれます。
- 「通常の感覚なら、出社できる体調にも関わらず、勤怠不良を起こす社員」
- 「就業上の配慮として残業抑制や出張制限をつけたのに、病気を繰り返す社員」
Bさんタイプの社員のことを「プレゼンティーイズム(Presenteeism)」といいます。
ちなみにAさんタイプの社員のことを「アブセンティーイズム(Absenteeism)」といいます。
会社では、社員の健康をサポートしている産業医、保健師、人事担当者、衛生管理者は、プレゼンティーイズム社員への対応やフォローが難しくて頭を抱えていること。
知っていましたか!!
前職において、第1種衛生管理者として社員の安全衛生業務に長く携わってきた坪根克朗が、どこの会社でも起こっている問題「プレゼンティーイズム」に関して、「なぜ起こるのか」「何が問題なのか」「会社としての対応策」等についてお話していきます。
健康上の問題でパフォーマンスが出ない社員の対応策とは
では、どのような対策をとればいいのでしょうか。
アブセンティーイズムと比較しながら考えてみたいと思います。
アブセンティーイズムの場合は対象者が限定されることもあり、会社の業績に関しても限定的になります。
この問題の対応は個別労務問題として、人事部主体で考えていくことになります。
それに対して、プレゼンティーイズムは、全社員に可能性があり、積り積もれば会社全体に対して大きな影響(生産性低下に伴う遺失利益は多大)を与えることになります。
このような働く人々の健康問題関して、わが国の法律では、会社は「社員が安全で健康に働けるように配慮する安全配慮義務」を負い、社員は「健康に働く自己保健義務」を負っています。
したがって、対策としては、産業保健従事者(産業医、保健師、衛生管理者)を中心として、会社(人事)、職場、社員一人一人が一体となった対応が必要になってくるのです。
なぜプレゼンティーズムが問題視されるのか
欧米を中心として様々な研究によって、病気の際には、アブセンティーイズム(欠勤)による生産性損失よりも、プレゼンティーイズム(疾病就業)による生産性損失のほうが何倍も大きいことが明らかになっているからなのです。
生産性損失の比較
以下のケースで見てみたいと思います。
いつもは90%くらいの能力を発揮している人が、心身の調子が悪くなり、集中力や思考力が低下して、70%の能力しか出せなくなったとします。1ヶ月の労働日を20日と仮定して、次のAさんとBさんの対応では、どちらが生産性の損失が大きいでしょうか。
- Aさん:心身の不調を回復させるため、3日間休んで、能率を90%にまで回復させてから、残りの17日間を頑張る
- Bさん:能率は70%まで落ちているが、毎日出勤して仕事を頑張る
2人の実質労働日数を計算してみると、次のようになります。
Aさん 90%×17日=15.3日
Bさん 70%×20日=14.0日
意外に思われるかもしれませんが、3日間休んだAさんのほうが、1日も休まずに皆勤したBさんよりも、働いた日数が長いことになるのです。
疾病別の生産性の低下データ
それでは、疾病ごとにどれくらい生産性(業務遂行能力)が下がるか見てみたいと思います。
健康日本21フォーラムでは2013年に「疾患・症状が仕事の生産性等に与える影響に関する調査」を実施しています。
アンケートを行う前の2週間以内に健康上問題が発生した20~69歳の男女2,400人に対して、健康時の業務遂行能力を100点とした場合、心身に不調があるときに何点になるかについて聞いています。
結果は、メンタル不調時には、56.5点、健康時より生産性がおよそ半分になってしまうことがわかります。他の病気もメンタル不調までいかないまでも、3割も生産性が落ちるとは驚きですよね。
プレゼンティーイズムが起こる原因
プレゼンティーイズムが起こる原因としては、「個人的要因」「職場要因」の2つがあると考えられます。
個人的要因
仕事への責任感
任されている仕事や職場の人手不足などを考慮して「自分が休むわけにはいかない」といった責任感からくることがあげられます。
「勤勉は美徳」という気質
日本の社員には「勤勉は美徳」という思いがあり、多少の風邪や体調不良を押して出社するという人は、決して珍しくありません。
承認欲求で無理をする
会社や上司に良く思われたいといった承認欲求から病気を押して出社することもあります。
転換性障害
葛藤やストレスといった心理的要因が、身体には何の問題もないのに、随意運動機能や感覚機能に異常をきたしてなかなかパフォーマンスが出せないこともあります。
職場の問題
休みにくい職場
職場全体で効率より頑張りを評価する職場の場合、多少の病気でも休めない雰囲気があります。
同僚や上司との関係が悪い。コニュニケーションがとれない
職場の人間関係が壊れていて、お互い助け合うという職場風土がないケースです。
プレゼンティーイズムによる会社での問題点
それでは、プレゼンティーイズムによって生産性損失以外どんな問題があるのでしょうか。
プレゼンティーイズム社員を見つけにくい
管理職がプレゼンティーイズムを知らない
プレゼンティーイズムの問題は、産業保健従事者の間では重要な問題として捉えられていましたが、プレゼンティーイズムの知識がない故に会社や職場ではあまり問題視されていません。
病気は超個人情報
職場では、管理職や同僚も「作業進捗が悪い」「期待したアウトプット」が出てこない社員に気が付いても病気と結びつかず、プレゼンティーイズムを起こしている社員を見過ごしている可能性もあります。
当該社員の主治医の「あまい診断書」が混乱を招く
主治医の「あまい診断書」とは「短縮勤務なら可能」「週3日勤務なら可能」といった、当該社員は正社員として雇用されているにもかかわらず、定時勤務よりも制限した勤務内容が書かれている診断書をいいます。
主治医ですから患者さんに擁護的であって当然ですし、診断書には当該社員の意向が反映されることがしばしばあります。
そのため、該当社員は、会社の産業保健従事者の改善指導に従わず、主治医の話を優先することにより、産業保健従事者を悩ます「対応困難ケース」になることがよくあります。
勤怠不良が度を超す
「勤怠不良が度を超す」とは、時々遅刻する、時々休むというレベルではなく、「週2〜3日は休んでしまう」「午後からしか勤務できない」・・・。
出勤率が60%程度、中には50%に満たない例も見られます。
職場として、「病気だから仕方がいない」と許容しているケースもあります。
周囲への悪影響
病気を同僚にうつす
ただの風邪でも、無理に出社すれば職場の同僚にうつしてしまう恐れがあります。そうなれば、組織全体のパフォーマンスに支障をきたすことになります。
プロジェクト全体に影響を及ぼす
該当社員の業務遂行能力の低下によって、「スケジュールに間に合わない」「製品品質を担保できない」などでお客さんに迷惑をかけるといったプロジェクト全体に影響を及ぼすこともあります。
病気の悪化
無理に出社を続けて症状が悪化すれば入院や休職、最悪退職といった事態に陥る可能性も高くなります。
プレゼンティーイズムの対応策9選
ここからは、プレゼンティーイズム社員を無くすための対応策についてお話していきます。
【対応策①】経営者と管理職の理解を深める
第一歩としては、プレゼンティーイズムの問題を経営者と管理職に正しく認識してもらう必要があります。
そのためには、プレゼンティーイズムについて知識のある産業保健従事者が経営者含めた管理職に対して研修などを実施する必要があります。
【対応策②】会社のプレゼンティーイズムを把握する
会社全体として、社員がどの程度プレゼンティーイズムに陥っているか実態を把握する必要があります。最近では、ストレスチェックが義務づけられていますし、同じようなタイミングで、定期的に実施してはいかがでしょうか。
以下の3つ方法がよく使われています。
HPQ
HPQ(Health and Work Performance Questionnaire)とは、WHO(世界保健機関)が用意した評価手法で、過去4週間の自身のパフォーマンスを10段階で評価するものです。
WLQ
WLQ(Work Limitations Questionnaire)は、1998年に米国タフツ大学のD・ラーナー博士らが開発した評価手法で、プレゼンティーイズムによる業務遂行能力の低下率を測定でき、「時間管理」「身体活動」「集中力・対人関係」「仕事の結果」の4つの下位尺度、25問の質問から構成されています。
SPS
SPS(Stanford Presenteeism Scale)は、スタンフォード大学が開発したプレゼンティーイズムを測定する手法として有名です。
労働者が最も影響を受けている健康問題を尋ねて、その疾患によるプレゼンティーイズムを測定することで疾患ごとにプレゼンティーイズムの程度を比較できます。
【対応策③】病気への対処法を教える
産業保健従事者は、病気になっている人だけでなく、予防のためにも生活習慣病などの対応策について事前に教えることも効果があります。
- 健康診断の結果をもとに病気のリスクや改善方法をアドバイスする
- 慢性疾患に対するヘルスケアガイドを配る
- 健康情報発信の際にプレゼンティーイズムに関する記事を載せる
- 主要な慢性疾患に対する対処を発信する
【対応策④】社員の健康上の問題を見極める
会社としては、産業保健従事者と連携して社員が抱えている健康上の問題(原因)を具体的に把握する必要があります。
そして、職場での働き方や関係者による面談を通して、「病気(転換性障害含む)なのか」「意識的なものなのか」を判断する必要があります。
以下の観点で見ていき、関係者間で情報共有できれば原因が見えてくると思います。
- 勤怠の状況(人事、職場)
- 仕事内容、進捗度合、アウトプットの評価(職場)
- 本人が病気を治そうとしているか(産業保健従事者)
- 主治医の処方、指示に従って自分で健康管理ができているか(産業保健従事者)
- 産業保健従事者の改善指導を守っているか(産業保健従事者)
【対応策⑤】健康情報の適切な管理と運用
プレゼンティーイズムは、社員の健康問題ですから、会社としては、社員の健康情報を
法令に従った形で適切に管理し、関係者間での情報共有していく必要があります。
そして、当然、健康情報の取扱規定を策定する必要があります。
健康情報の取り扱い規定での記載内容
- 健康情報の取扱者
- 法令によって会社が必ず収集し、会社が取り扱える情報
- 法令によって会社は収集するが、会社は加工されたうえで取り扱える情報
- 法令によらず会社が収集するが、取り扱う場合は、社員の同意が必要な情報
健康情報の取り扱い時の留意事項
- 面接指導の結果は、産業保健従事者あるいは予め定めた担当者が扱う
- 職場管理職へ伝える時は、目標(就業上の配慮)を明確にして、情報を加工する
- 人事には、法令上把握しておくべき情報や、就業上の措置に関する情報を伝える
【対応策⑥】該当社員のフォロー
プレゼンティーイズムを起こす社員の病気や原因を見極めたうえで、以下の図のようにフォローしていく必要があります。
職場はリハビリの場ではなく労務を提供していく場ですから、軽減勤務などを永久に続けていくことはできません。
そのため、「観察する期間」「猶予する期間」を決めて時期が来たら、本人との面談のうえで、今後の対応、「雇用契約の見直し」「再休職」「ローパフォーマー社員としての対応」を行う必要があります。
ローパフォーマーの対応については、私のブログに書いていますので、参考にしてください。
【対応策⑦】「あまい診断書」を書く主治医対応
主治医の診断や対応に疑問を感じるケースでは、社員の症状などの正確な情報が主治医へ伝わっていない可能性が考えられます。
このような場合は、本人から同意を得たうえで、以下の内容を伝えてください。
- 職場での本人の様子(勤務実績)
- 職場で表面化している課題
- 会社が社員に期待すること
- 会社が許容可能な配慮内容
【対応策⑧】職場風土の改善
適切なマネジメント
部下への適切な業務内容や業務コントロールによって、部下の仕事へのストレスを減らし、良い健康状態を作ることができます。
職場のサポート体制の整備
調査では、同僚や上司との関係が良好な人は、体調が悪いときにしっかり休むという結果も出ています。職場としてサポート体制が整っていると安心して休めます。
【対応策⑨】自己保健義務を再認識
そもそも社員には、「会社で健康に働く」と自己保健義務があります。この義務は、社員が健康に働くということの他に、会社が行う健康管理処置に協力する必要があるということです。義務を守るには、以下の行動が必要になります。
自分の病気を職場に伝える
体調不調はだれでもあります。周りからのサポートを受けるためにも、自分の病気を上司には伝えてください。
主治医の処方、治療指示に従う
自分自身の健康のことですから、主治医の処方や治療指示を最低限守る必要があります。また、産業保健従事者からの生活習慣病についての保健指導にも耳を傾けてください。
まとめ
体調不良のまま出社し生産性が低下するという問題(プレゼンティーイズム)は、生活習慣病やメンタル不調者の増加、また今後の社員の高齢化にともなって、会社にとって重要な問題になっています。
また、来年からの5Gの実用化に伴う働き方改革の一環としてリモートワークが進み、その結果、今後ますます社員の勤怠管理が難しくなり、プレゼンティーイズムの問題は複雑化してくるのではないでしょうか。
そのため、会社はこの問題を早く認識して、対応方針を決め早急に取り組む必要が出てくると思います。
ただ、対応を進めていく中で、原因不明の「意識的に」まじめに働かない社員がいた場合は、問題社員として扱う必要がでてきます。
そして、そのようなケースではTC坪根キャリアコンサルティングOfficeに相談してください。