ローパフォーマー社員を再生・戦力化する!業績改善プログラム運用の核心8点
あなたは「ローパフォーマー社員」って知っていますか?
それでは「ぶら下がり社員」「ただ乗り社員」と言えばピンときますか?
一般的な話として、会社において、期待を下回る成果しか出していない低業績・低評価社員のことをローパフォーマー社員といい、会社の規模に関係なく10%~20%は存在すると言われています。
あなたがこのような社員を部下として抱えた時、見て見ぬふりをしていませんか?
会社を取り巻く事業環境が厳しい中、人を遊ばす余裕はないし、周りへのモチベーションの観点からもローパフォーマー社員を放置してはいけないのです。
放置しないためには、ローパフォーマー社員になった原因を探り、周りと協力しながら強い意志と情熱をもって、ローパフォーマー社員の再生、戦力化を考え、行動する必要があります。
それによって、ローパフォーマー社員本人が、自らを見つめなおし、行動変容を起すことにより、ハイパフォーマー社員へと変わっていくことが可能になるのです。
そこで、地方の会社の人事で労務問題にも長く取り組んできたキャリアコンサルタントの坪根克朗が、日常的に行われる目標管理制度(Management By Objectives and Self-control)とは違うかなり厳しめの業績改善プログラム(PIP:Performance Improvement Program)の話をしていきますね。
ローパフォーマー社員とは
ローパフォーマー社員とはどんな人
会社は新人から役員まで役割や役職に応じた成果と行動を求め、それに答えてくれたことに対して報酬(昇進・昇給)を払っています。
このような会社の仕組みの中で、ローパフォーマー社員とは、長年に渡って常に低い成果しか出せない社員を指します。わかり易くいうと給料に見合った成果を出していない社員のことになります。
それ故に「(会社に)ぶら下がり社員」「ただ乗り社員」という言われ方をされることもありますね。
ただ、ローパフォーマー社員は、取り扱いの難しい問題社員と違い、しかるべき指導があれば十分再生可能な人をいいます。
- 度重なる無断欠勤やセクハラ行為など社内規則を守らない
- 社外でトラブルを頻繁に起こす、不正行動をとる
ローパフォーマーの分類
本人の適正と仕事が不一致タイプ
本人の適正を見抜けず、適正に合わない仕事に就かせているために成果がでないタイプ
スキル・センス陳腐化タイプ
保有するスキルやセンスが陳腐化し、時代に合わなくなってきているのに本人だけ気づかずに仕事しているタイプ
人間関係悪化タイプ
上司や周囲とのコミュニケーションがうまく取れず、自分の意見や行動を変えるという柔軟性にかけるために職場で孤立し、仕事をアサインされなくなってきたタイプ
リストラに伴う事業・仕事消滅タイプ
リストラに伴って所属している組織や仕事がなくなり、新しい仕事についていけなくなり、補助的な仕事しか任せてもらえないタイプ
休職明けの職場環境未適応タイプ
病気休職、介護休職など休職後、職場に復帰しても、アサインする仕事がないため放置されるタイプ
「確かにこういう方は自分の近くにいるよな」「うちの〇〇さんは、どうも△△タイプかな」などローパフォーマーはどんな方かわかってもらえましたか。
ローパフォーマー社員を放置することの弊害
組織の生産性の低下
ローパフォーマー社員1人では成果がでないので、同僚が肩代わりをしないと仕事が回らない分、フォローする人の仕事が増えた(コスト増)ことにより、組織としての生産性(利益)は落ちます。
職場での仕事へのモチベーションの低下
四六時中ローパフォーマーが起こす仕事の抜けや漏れなどをカバーしなければならないと思うと、同僚の仕事へのモチベーションは下がり、職場の雰囲気は悪くなりますよね。
なぜローパフォーマーになってしまうのか
半期や1年くらいの期間を区切り「目標管理制度(MBO)」などの制度を導入して社員が成果をだせるような制度を導入している会社が多くあります。
目標管理制度 MBO(Management By Objectives and Self-control)は、1960年代にドラッカーらによってマネジャー、上司が部下をマネジメントするための方法として考えられたもので、部下と上司がコミュニケーションを取りながら、部下のやりたいことと会社の方向性とを近づけて目標設定を行い、その達成を支援し、最後に達成度の評価を行うことで、目標を達成し成果を高めていくための仕組みです。
このような制度がきちんと運用できていれば、ローパフォーマーを生む出すことはないのですが「本人の問題」「上司の問題」などがあり、ローパローマーが生み出されてしまうのです。
本人の問題
能力面での課題
- 若手社員の場合は「報告・連絡・相談」など基本的な取り組みやスキルの不足
- ミドル社員であれば、仕事の変更/職場環境変化に対して保有スキルに固執
意識面での課題
- 「自分は会社に貢献している」という自分自身への認識の甘さや自信過剰
- あらゆる仕事に対して「自責」の認識が低く「他責」(他人や環境のせい)が全て
- 「ダメだし」が続くことで「期待されていない」という意識の固定化
- チャレンジ精神や変化に対する柔軟性の欠如
職場環境での課題
- 担当業務や顧客に恵まれなかったという外部的要因
- 「あの人は使えない」などの安易なラベル張りと風評
上司の問題
指示の不明確さなどの指導不足
- 部下1人1人への役割や期待が不明確(特に年上の部下に対して顕著)
- 部下に任せないプレーイングマネージャー
- コンプライアンス対応などの間接業務で忙しく、部下への目配りや気配りなどの不足
フィードバックが甘い
- 本人の業績に見合わない甘い評価
- 改善施策をアドバイスできない
ローパフォーマー社員を再生し、戦力化する方法とは
上記のような理由によって、ローパフォーマー社員になってしまった社員を再生し、戦力化を図るには、これから紹介する「業績改善プログラム」のようなかなり厳しめプログラムを実施する必要があります。
業績改善プログラムとは
業績改善プログラム(以下PIP: Performance Improvement Program)とは、ローパフォーマーに対して、期間を区切って具体的な業績目標を掲げ、その期間内に定期的な評価や指導面談を繰り返して、業績改善することを求めることです。
再生し、戦力になると判断されれば、継続して業務に従事してもらうことになりますが、改善できない場合は、降格や別職種への配置転換も検討します。また、何度も業績改善プログラムを繰り返しても、再生できない場合は、セカンドキャリア推奨を行うことになります。
どうですか!
本人の会社人生の進退をかけたプログラム「そこまでやるか」という厳しいですよね!!
業績改善プログラム実施の留意事項
対象者の会社人生がかかっているわけですから、実施する側(会社、事業組織)もされる側(対象者)も真剣に取り組む必要がでてきます。
- 実施の責任者は、事業の責任者(事業部長クラス)
- 指導者は、対象者に「置かれている立場」を明確にしてから開始すること
- 対象者は「会社に残れる最後のチャンス」くらいの気持ちで臨むこと
- 人事部の全面支援が必要
- 期間は、長期にしない(3か月くらい)
- 指導者は、すべて記録に残すこと
業績改善プログラム(PIP)運用の核心8点
それでは、業績改善プログラムの運用(進め方)のポイントをお話していきますね。
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心①】対象者や指導者の選定
対象者の選定
対象者の選定は定性的な目安では難しいので、例えば以下のような定量的な目安で行ってください。
- 年1度の人事考課(注1)が2年連続で最低評価の方
- 業績評価(賞与額)が2年連続で標準金額を下回る方
(注1)社員の能力や勤務態度、業務に対する貢献度を一定の基準で評価すること
ただし「昇格して2年以内」「休職中または復帰して6か月くらい」の人は除外してあげてください。
指導者の選定
指導者の選定にあたっては、対象者を良く知り、信頼関係を構築できる管理職が望ましいですね。そして、指導者は、ローパフォーマー社員に本気で向き合い、対象者のために真剣に改善に向けた注意・指導を行うという気概をもつ必要があります。
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心②】対象者の問題点の明確化
改善の可能性を高くするために、指導者を中心として、同じ組織の管理職や人事部を交えて対象者の問題点を明確にする必要があります。
問題点の整理と把握
対象者の問題点を整理するポイントは以下のようなものです。
- 勤怠状況、健康状況
- 業務内容(過去から現在の業務内容)
- 業務適正(職務不適と考えられる場合の理由)
- 人事考課や業績考課が未達の原因(評価者を疑う必要もあり)
- その他(執務態度、問題行動有無)
配置転換や業務異動の検討
問題点の整理の中で、本当はパフォーマンスが低いのではなく、その業務に対する適正に問題があることもあります。そのような話になった時は、組織長(事業部長や部長クラス)や人事部と相談して配置転換や業務異動の可能性を探る必要があります。
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心③】オリエンテーション
PIPの実施にあっては、組織としてローパフォーマー社員を放置させず、再生し、戦力になってもらうための施策であることを理解してもらうため、事業の責任者や指導者が立場に応じた説明をする必要が重要になってきます。
組織長のオリエンテーション
- 組織の置かれている状況(ローパフォーマー社員は放置できないこと)
- PIPの主旨、適用、対象者への期待
指導者のオリエンテーション
- 対象者の業績が組織の期待水準に達成していないこと
- PIPの具体的な進め方について説明
- 改善できた場合、改善できない場合の今後の対応の可能性
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心④】対象者の強みの再認識
対象者も自分がローパフォーマー社員になってことを気づいているので、対象者だけでなく、指導者も対象者の強みを知っておいたほうが、業務目標を立てやすくなり、自己効力感や自己肯定感を上げるきっかけにもなります。
対象者の強みを調べてから始めませんか。
自己分析(自分の強み)を知りたいなら、こちらの記事をご確認くださいね。
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心⑤】達成可能な業務目標の設定
仕事をアサインしたうえで、業務目標を設定します。まずは指導者が叩き台を作成し、その上で本人と話し合い達成可能な目標を設定していきます。業務目標設定の重要なポイントは以下になります。
仕事のアサイン
目標を設定するためには、仕事が必要です。実施時に対象者に仕事がアサインされていなければ、組織長と相談して業務目標の立てられる仕事を準備してください。
業務目標の量・質の適正化
業務目標設定にあって、目標の量・質は対象者の資格(担当、係長、管理職)に応じたものなっている必要があります。そして、その目標が達成できたら、人事考課や業績評価は「標準以上」が見込まれる内容にしてください。
業務目標は、努力目標ではない
業務目標は、努力目標ではなく、実現時期(~の時期までに)や具体的(~をいう成果を出す)といった内容になっている必要があります。
半月ごとの業務目標の必要性
3か月と区切られた業務目標を実現するために、もう一段階ブレークダウンした半月ごとの目標を設定してください。それにより対象者の業務目標の達成に向けた施策が具体的になります。
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心⑥】指導者による指導と記録
日常の指導の実施
指導者は、設定した目標に従い、日常から指導(コーチング)を行い、業務の進捗状況の確認や目標に向けての施策へのアドバイスを行ってください。
記録の重要性
PIP実施において、指導者は、対象者に対して「いつ」「どのような問題に対して」「どのような注意・指導」したかを記録しておいてください。対象者への「今後の対応」を決める時の参考にするためです。
評価結果の確認
半月ごとに面談にて、目標に関しての評価結果を、対象者に伝えてください。
下回る場合は半月の業務遂行を振り返り、原因を探り、挽回できるよう目標達成に向け指導していきます。
S:期待水準を大幅に上回る A:十分上回る B:期待通り C:ほぼ期待通り D:下回る
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心⑦】指導面談の留意事項
PIPの面談時の指導は、ついつい厳しめになるので、以下の点を留意してください。
- 指導者は第三者的な発言(PIPは上司からの命令でやっている)には気をつけること
- 対象者のプライドを大切にする
- 本人の改善に向けた行動変容があれば褒めること
- 注意・指導がパワハラにならないよう気を配ること
- 対象者のいい分を傾聴したうえで、指導すべきところは指導すること
【業績改善プログラム(PIP)の運用核心⑧】今後の対応の決め方
PIP実施の評価(対象者への会社の対応を決める)は、非常に重要な作業になります。
したがって、指導者だけに任せるのではなく関係者(組織長や人事部)が定期的に情報共有しながら、対象者の人生を決めるかもしれない今後の対応ついて考えていく必要があります。
実施期間中の情報共有(1か月単位)
指導者が作成した記録をベースに、業務目標の進捗状況や達成に向けた課題、達成に向けた指導方法の見直し、達成の可能性について共有してください。
最終結論の出し方
従来の関係者に担当役員、人事部長も加わって、3か月のPIP実施結果を踏まえて対象者に伝える内容(最終結果、理由、今後の対応)を協議します。
業績改善プログラム運用後の対応策
対象者の今後の対応が決まったら、オリエンテーションしたPIP実施責任者(事業部長クラス)から「PIP実施結果(目標達成か/未達か)」「理由」「今後の対応」を伝えます。
経過を注視しながら継続勤務
期待レベルに到達(評価でB以上)していて、職場に戻って戦力として活躍できそうな場合は、経過を見ながら職場で働いてもらうことになります。
PIPの再実施
期待レベルがほぼ期待通り(評価でC)なら、再度PIPを実施したならば、目標達成が期待できる可能性がある場合や、期待レベルを下回っている場合でも対象者や指導者から「再度改善の機会を与えてほしいという要望」等があれば、再度PIPの実施を検討することもあります。
降格
複数回のPIP実施によっても期待する水準での業績が見込めない場合は、降格して、下位の資格に見合った仕事をしてもらうことを検討することになります。
セカンドキャリア(転職)の推奨
降格しても職場での業務遂行が難しいと判断した場合は、セカンドキャリア(転職)を推奨することになります。ただ、トラブルとならないためにも、セカンドキャリアを取得しやすい制度を準備し、提供する必要があります。
- キャリア形成を支援する有給の休暇を与える
- 転職支援会社を会社の費用で契約
- 退職加算金の付与
まとめ
ローパフォーマー社員の再生、戦力化は会社・組織にとって、手間や時間がかかるし、大変な作業です。
PIPの実施は隠していても、噂として組織の中で広まり、ローパフォーマー社員を放置しないという取り組みは職場の活性化につながり、新なローパフォーマー社員を生み出す抑止力にもなります。
また、セカンドキャリアを推奨するということになっても「会社がここまでやってくれたのに、この会社では成果がでない」ということで、本人にとって納得したうえで転職を前向きに捉える機会とすることができるのではないでしょうか。
セカンドキャリアを推奨するなんて、非情な話に思えますが、その人の人生にとって何が幸せかわかりません。50代でリストラ(退職勧奨)を余儀なくされたけど、再就職した会社で元気に働いている人を多く見てきました。
組織として「業績拡大」「強靭な収益構造の確立」のためにもPIPには前向きに真剣に取り組んでいただきたいと思います。
そして、再就職に不安な部下がいたなら、以下のブログを紹介してあげてください。
職場でローパフォーマー社員の再生、戦力化を考えている上司の皆さん参考になれば幸いです。