新型うつ!問題社員の接し方や対応策は?【管理職必見】の労務管理施策7選

2012年くらいから、マスメディアが言い始めた“新型うつ”。従来型のうつと同様不眠や気分の落ち込む症状を有する一方で、常にうつ症状に陥っているわけでなく、職場を離れると気分が回復し、趣味旅行などの好きなことには活動的になるという、うつ病学会でも正式な「病気」として認定されていない「軽症抑うつ状態」をいいます。
会社にとっての問題は、新型うつは病気ではないにも関わらず、“うつ病”の診断書を持ってきて、労働契約法上の社員の義務である「労務提供」を簡単に放棄する事案が増えてきていることです。
しかし上司は、“うつ”という言葉に惑わされて、新型うつ社員への接し方、指導がわからず、結果として新型うつ社員に好きにされているのが、会社の実情ではないでしょうか。
会社としては、新型うつ社員の病態を理解し、メンタルヘルスの問題として、腫物に触るような対応をするのではなく、毅然たる態度で人事の労務管理の枠組みの中で対応していく必要があります。
そこで、問題社員解決キャリアコンサルタントの坪根克朗が、新型うつ社員への対応について「休職規定作成」「抑うつ状態発見」「休職申し出」「休職中」「復職申し出」「復職後」「問題社員化」といった7つのタイミングで会社がやるべき労務管理施策についてお話していきますね。
新型うつとは
新型うつの特徴は?
新型うつは、病前性格から「ディスチミア親和型うつ」とも言われ、以下の特徴を持ちます。
- 自分の好きな活動では元気になる「状況依存性」
- 自分に好ましい出来事があるとうつが軽くなる「気分反応性」
- うつ状態に陥った責任を会社や上司にあるとする「他責任」
- 休職を深刻に捉えていないという病者意識の「希薄性」
Aさんは連日の残業で疲弊し、先の見えないプロジェクトに不安を感じています。そして、その原因は「お客様と仕様に関して調整できない上司が悪い」と思い込んでおり、次第に不眠症状が現れ、ついには体調不良を理由とした休暇が目立つようになりました。そして、ある日突然上司に診断書(うつ状態で2か月の自宅療養を要する)を提出し、休職に入ってしまうのです。ところが、休職中に海外に行ったり、カラオケで騒いでいる様子をSNSでアップして過ごしています。それを見た同僚や上司はビックリするとともに、復職は近いと安心します。ところが、復職間際になるとAさんの体調は悪化し、主治医から休職の延長を勧められたと言って休職を延長してしまうのです。
皆さんの会社にも居ますよね~!
「新型うつ」と「従来型うつ」の病態の違い
新型うつ病態を理解してもらうために、「メランコリー親和型うつ」と呼ばれる従来型うつと比較すると以下のような違いがあります。
新型うつによって会社は何が困るのか
それでは、新型うつ社員がいることによる、会社としての問題点を整理してみましょう。
【新型うつ問題点①】若手社員が成長の機会を無くす
新型うつは若年層に多いと言われています。仕事が合わない、上司が苦手などの理由で「抑うつ状態」という診断書を持ってきて、簡単に休もうとします。残念なことは社会人の基礎力や仕事を覚えるといった貴重な成長の時間を無くしてしまうことです。
【新型うつ問題点②】仕事・職場への適応ができない
新型うつ社員は、病前性格の影響からか「仕事への適応」「上司含めた職場での信頼関係構築」を苦手としています。
【新型うつ問題点③】ローパフォーマーになりやすい
新型うつの特徴として「抗うつ薬が効きにくい」ということがあります。そのため、病態も長期にわたり、休職も繰り返します。その結果、会社は戦力としてみることができなくなり、低業績・低評価の社員、すなわちローパフォーマー社員になる可能性が高くなるのです。
【新型うつ問題点④】職場のモチベーションが下がる
よく休む、また勤怠の安定しない社員を抱える職場では、周囲のメンバがその人の分の仕事をカバーすることになるので、周りのメンバの作業負荷が増え、職場の士気、モチベーションは下がってきます。
また、新型うつ社員を「扱いにくい社員」として放置していると、社員は、上司はもちろんのこと人事や会社対しても不満を持ち始めます。
新型うつ労務管理の方針
労務管理の枠組みで対応の必要性
新型うつ社員の問題は、メンタルヘルスの問題だとして、腫れものに触るような対応や、特例を認めるのではなく、人事の労務管理の枠組みの中で対応していく必要が出てくるのです。
会社・職場の心構えや接し方
新型うつ社員に関係する方々(上司、同僚、人事、保健師、産業医)は、会社のルールに従って「配慮すべきところは配慮し、言うべきことは言う」という一貫した対応を心がけることが重要になります。
新型うつ社員への労務管理施策7選
【新型うつ労務管理施策①】留意すべき休職規定
休職期間とは、解雇を猶予する期間
休職期間とは、解雇を猶予するという意味あいを持ち「その期間が満了しても休職事由が消滅しない場合は、休職期間の満了をもって退職(自然退職)とする」ということになります。
再休職に入る規定
再就職に入るために、復職を確認する期間や、再休職に入る欠勤日数のカウント設定などが必要です。
会社は、第※※条に該当し休職したものが、復職し、復職後12か月以内に再び同一または相関連する傷病による欠勤した場合は、欠勤開始後、欠勤日数の通算が20日に達した翌日を休職始期とする。また、休職期間は、復職の前後を合算する。
【新型うつ労務管理施策②】抑うつ状態者発見時の対応
抑うつ状態の社員に気が付いたら以下の対応が必要です。
長時間残業の有無の確認
抑うつ状態になった原因が長時間残業を見過ごした結果でないかどうか、最優先で残業時間の確認が必要です。長時間残業が原因なら業務起因性が強いことになるので、労務災害リスクや会社が訴えられる可能性も出てきます。人事、組織長はもちろんのこと会社のトップにも情報を上げてください。
新型うつの見極め
新型うつと疑われる社員の診断書は、たぶん「抑うつ状態」としか書いていないと思うので、保健師さんかメンタルヘルス知識のある人事担当者が、新型うつかどうかの見極めと抑うつ状態になった原因の把握が必要になってきます。
見極めポイントは、新型うつの特徴を有しているかどうかになり、具体的な質問項目は以下になります。
- 大うつ病診断基準DSM-Ⅳで挙げられた症状の確認質問
- 仕事/職場適応性の質問
- 上司との関係を問う質問
- 仕事を離れた時の行動の質問
- 帰宅後や休日の行動の質問
新型うつの場合の対応策の検討
新型うつの可能性が高く、その原因が「仕事・職場の適応性」や「上司との関係」が強い要因として考えられるなら、人事、組織長と相談して、異動や上司の交代の可能性を探ってみてください。ただし、休職にならない限り、直ぐ動く必要はありません。
【新型うつ労務管理施策③】休職の申し出時の留意事項
休職の申し出時のポイントは、会社サイドで休職の正しい理由を知り、休職に入る段階で、本人にきちんと説明しておくことが重要になります。
休職の理由は、労務提供ができないこと
休職理由は「抑うつ状態である」ことではありません。休職となる理由は、社員が「抑うつ状態のため、労務提供ができないこと」なのです。
「労務提供できない状態」を明確にする
休職にはいるにあたって、社員がどのような状態で労務提供できなかったか具体的に行動を把握しておく必要があります。復職時の判断基準に使用します。
例えば「出勤が安定しない」「上司の指示に反抗的である」「同僚との協調性がない」などといったことになります。
【新型うつ労務管理施策④】休職中の会社の対応
休職期間中おいても、会社が当該社員に対して「解雇猶予を続けるのか」「復職の可能性はあるのか」を判断するために社員と連絡をとる必要はあります。
主治医の診断書
主治医からの診断書は、月一度は診断書を提出してもらってください。
該当社員からの状況報告書
主治医からは、毎回、一言一句違わない表現の診断書が送られて来てくることがよくあります。これでは当該社員がどこまで回復したのか、全くわかりません。そのため、当該社員から月1度は以下の内容のような報告を提出してもらってください。
- 病状の説明
- 日中の活動や睡眠に関する記録
- 投薬服薬状況
当該社員との面談
休職期間中、当該社員からの報告を踏まえて、休職前にヒアリングした(病態のわかっている)保健師さんか人事担当者が、回復状態を見極めるために面談することを勧めます。
特に当該社員の「上司との関係」「同僚との協調性」などを見極めてください。
【新型うつ労務管理施策⑤】復職の申し出時の対応
復職の判断は会社が行い、判断基準や復職プロセスは必要
復職許可の判断は、主治医の診断書(復職可能)を元に「会社」が決定できるようにしておく必要があります。
復職の判断基準は、労務提供できること
労務提供ができるかどうかの見極めは以下の3つのポイントがあります。
- 所定労働時間はフルに労務提供できるか
- 休職前の職場で、職務(役割)を通常程度に遂行できるか
- 「出勤が安定しない」等の勤怠問題が解消できているか
復職プロセスは、休職プロセスより厳しく行う
- 主治医からの診断書(復職可能)の提出
- 休職者と保健師さんおよび人事担当者と面談(休職前状態の回復確認)
- 産業医または会社の指定する専門医を受診
- 産業医の診断結果を受けて、人事管理職、組織長と休職者の復職プログラムを相談
- 休職者と人事管理職と面談
復職プロセスでの留意事項
復職プロセスでの面談や相談時は必ず面談・相談記録を残してください。今後の新型うつ社員対応の復職基準の参考になりますし、また将来起こりうる訴訟リスク回避のためにも重要なことです。
【新型うつ労務管理施策⑥】復職後の会社の対応
職場には現職復帰
復職前の保健師さんや人事担当者との面談において、上司との相性、職場との関係が問題としてあったなら、上司の変更、職場の異動を検討してみてください。
新型うつ社員への接し方(指導方法)
新型うつ社員は、病前性格からわかるように、自己中心的な未熟な人格(嫌なことから逃げる、仕事不熱心)なわけですから、まずは人間的成長を促進する積極的な指導、かかわりが必要になります。
- ありのままの本人の気持ちを受けとめる
- 自分の置かれている立場、周りのとの関係を気づかせる
- 仕事や自分のキャリアに関して、本人に考えさせ、決めさせる
- 指示や注意すべき点は躊躇することなく、事実を伝える
- 小さな成功をほめて、積み重ねることによって自信を持たせる
【新型うつ労務管理施策⑦】問題化してしまった社員への対応
休職の繰り返しで休職期間満了を迎えそうな社員、ローパフォーマー(低評価・低業績)になってしまった社員、会社がいろいろな対応をとったにも関わらず「仕事への適応」「職場への適応」ができなかった社員など、問題化した社員への対応方法についてお話しますね。
休職期間満了(自然退職)を迎える社員へ対応
休職期間満了近くになって復職願いを出してくる社員が多々います。このような場合も、従来通り、復職の判断基準、プロセスに従います。
ただし、休職を繰り返すごとに、復職基準は当然のことながら厳しくなってきます。
会社としては、社員を守る「安全配慮義務」を背負っていますから、温情で復職させることはできません。したがって、会社を離れて治療に専念できるように自然退職を勧めることになります。
もし、当該社員が自然退職を不服として訴えてきても、会社の復職基準、復職プロセスの説明および産業医や専門医の診断結果、保健師さんや人事担当者との面談記録で対応が可能です。
ローパフォーマー(低評価・低業績)社員への対応
ローパフォーマー社員になってしまった社員への対応は、私が以前書いたブログ記事を参考にしてください。
もし、再生、戦力化できなかった場合でも、解雇を行えるエビデンスは集まっていますので、退職勧奨を行ってください。
セカンドキャリアの推奨
上司を変え、職場を変え、上司から自己成長を促す指導を受けても、仕事へ適応や職場への適応ができない場合は、「会社(職種・職務)とあなたはミスマッチを起している」という理由でセカンドキャリアの推奨、すなわち新しい仕事、職場を見つけてもらうしかありません。
まとめ
新型うつ社員への対応をみてきました。会社でそこまでやらなければならないのかという疑問をもたれた方も多いのではないかと思います。
しかし、近年、新型うつ社員が確実に増えており、放置すればするほど、ローパフォーマー社員になりやすく、また会社とのミスマッチも顕著になってきます。
会社としては、セカンドキャリア取得のため教育や転職支援などを積極的に進める「イクジット・マネジメント」などが必要になってくるのではないでしょうか。
TC坪根キャリアコンサルティングOfficeでは、問題社員対応やイクジット・マネジメントの環境作りのコンサルティングが可能です。ご相談ありましたら承ります。
イクジット・マネジメント(Exit Management)とは
組織の出口(exit)管理”を意味します。組織の健全な新陳代謝を促すために、雇用の入口にあたる採用の一方で、出口に相当する退職などの個人との関係解消についても戦略的に計画・管理する人材マネジメントのことです。